母のチャレンジとそれを応援する息子が営む「やどかりカフェ」
2020年7月から「ハレタかみしほろ」では、月曜〜水曜日のランチタイムに「やどかりカフェ」が営業中です。カフェを運営する、普川奈緒子さん(63)が茨城県から上士幌町に移住してきたのは2004年。15年以上にわたる上士幌の生活で地域の人に支えられた恩返しをしようと考えていました。そこで生まれたアイデアが、何の経験もなかった飲食業。ハレタかみしほろで飲食店にチャレンジできることを知り、スペースを借りました。また還暦を超えた奈緒子さんの挑戦を応援しようと、飲食業の経験がある息子・元晴さん(37)が一肌脱いだのでした。(制作:ホロロジー編集部/取材:2020年10月)
介護がつなげた、まちとのつながり
――今日はお時間をいただきありがとうございます。2020年7月にオープンし、4カ月ほど経ちますが、お店はいかがですか。
奈緒子さん:お店をはじめて間もない頃は、体がしんどいときもありましたが、ハレタの人たちや周りの皆さんが励ましてくれたから頑張ってこられたかなと思います。実際にやってみて、健康でないと続けられないと分かりましたね。
――そうですよね、ずっと立ち仕事だと、肉体的にも精神的にも相当大変だと思います。上士幌町には移住されてこられたと伺っていますが、こちらの暮らしはどうですか。
奈緒子さん:夫が獣医をやっていて、転勤で全国を回っていました。熊本で13年間、茨城で14年間を過ごして、2004年に上士幌町に来ました。当時、神奈川県藤沢市に住んでいた母が認知症だったこともあって、上士幌に来てもらったんです。そうしたら地域の方たちが母のことを手伝ってくれて、まちや地域との関係というのかな、そういうつながりができたことが印象的です。
――家事をしながら介護と両立させるのはとても大変だったんじゃないですか。
奈緒子さん:周りの人たちの支えもあって、母は上士幌に来たときよりも調子が良くなって結局、藤沢に戻ったんですよ。
――すごい。上士幌町に来て元気になられたのですね。
母がはじめて口にした「やりたい」
奈緒子さん:それから、このまちに何か恩返しがしたいと考えはじめました。でも、結婚してからはほとんど専業主婦だったから何をすればいいのか自分でもわからなかった。それでも人生このままでいいのかという考えはあってね。そんなときにまちづくり会社がチャレンジカフェを募集していると聞き、相談に行ったことがこのカフェの始まりです。
――ご自宅で料理はされていたとはいえ、お店で提供するメニューはまた違うから大変だったんじゃないですか。
奈緒子さん:最初は1人でやるつもりだったんだけど、息子(元晴さん)にカフェで出すメニューを考えてもらうようになっているうちに、一緒にやることになったんです。
――親子仲がいいんですね。息子さんにとっても大きな決断だったでしょうね。
奈緒子さん:息子はイタリアンレストランやバーで働いていて飲食業のことは詳しかったから本当に助かりましたよ。
――元晴さん、お母さんのお話を聞いていかがですか。
元晴さん:なにせ母がはじめて「やりたい」って言ったことでしたからね。うん、それはもう。
――それはもう、応援するしかない、と?
元晴さん:そうですね。母を助けたい気持ちもありましたけど、自分にとっても東京から上士幌町に来てまちの人と関わるチャンスをもらったと思いました。行くしかないだろうと。
まちのためを考える
――上士幌町でカフェにチャレンジすることにハードルは感じましたか。
元晴さん:このまちにあるといいなという場所を作り、まちのためを考えたらうまくいくと思っていました。
――ガパオライスなど周囲のお店で出していない、こだわりのあるメニューもありますよね。
元晴さん:レパートリーは30種類ほどあるので、お客さまの反応を見ながら、継続的に楽しんでもらえる方法を考えていけたらと思っています。
――このチャレンジをはじめてから、新しい発見などはありましたか?
元晴さん:まず驚いたのは、来たお客さまはほとんど料理を残さずに帰ってもらえているということ。東京などで飲食店をいくつか経験したけれど、こんな経験ははじめて。本当に嬉しいことです。
――すごい!美味しいのはもちろん、提供されたものはしっかりといただくというのが上士幌町の皆さんには根付いているのかもしれませんね。
元晴さん:上士幌町の皆さんには本当に良くしてもらっていますが、そういう、人となりが滲み出ているなと感じています。
――「ハレタかみしほろ」の使い心地はどうですか?
奈緒子さん:ここがチャレンジカフェだったからはじめられたよね。そうじゃなかったら飲食店なんてできなかった。たくさん相談に乗ってもらえたし、ご飯だってここの職員さんが試食してくれたり、感想を伝えてくれたり、安心して営業ができる環境を整えてもらっています。感謝しかありません。
――チャレンジカフェを卒業したあとはどうしていきたいですか。
奈緒子さん:まずは息子がいなくても1人でできることを目指さないとね。どんなお店がいいのか分からないけど、まちに住む人たちの居場所を作りたいなと思っています。自分で盛り付けのイメージをノートにまとめてレシピを作っているし。やっぱり店は同じ味になるようにしなきゃいけないもんね。
――卒業をイメージしながら、今試行錯誤できるということですね。
奈緒子さん:そうですね。大変なことも多いけれど、楽しみにしてくれている人も出てきて、頑張りたいなと思っているところです。
――長時間いただき、ありがとうございました。新たな店の開業を楽しみにしています!
取材を終えてみると、2人の仲の良さがにじみ出る場面が随所にあり、2人3脚という表現がぴったり来る親子でした。地域の人たちにも段々と認知されている「やどかりカフェ」は、「しなやかに」地域で根を伸ばしていると感じました。
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