かみしほろ人材センターで酪農にチャレンジ!(後編)~ミルクやり・お産立ち合い編~
皆さん、前編は読んでいただけましたか?(記事はこちら)
「酪農チャレンジ」の前編では、外の牛たちへの餌やりと生まれたての仔牛の小屋のお掃除の様子をお伝えしました。外では勢いのある母牛たちの前で汗をかき、牛舎では生まれたての仔牛に癒され、そしてここからはいよいよ後編です。
後編ではまず成牛の牛舎のお掃除、そして仔牛のミルクやりをしていきます。それに加え、今回はなんと幸運にも牛のお産シーンに立ち会わせていただくことができました。
WRITER
中山 舞子
1992年生まれ。千葉県在住。青年海外協力隊としてインドに派遣予定。海外派遣の目途がたたない現在、上士幌町に5ヶ月間滞在中。外からの目線で上士幌の魅力を掘り下げて行きます!
まずは牛舎の掃除から!
まずは牛舎の掃除からやっていくよ! 今日は発情期の牛が多いから気を付けてね!
モウくん! 後編もよろしくね!(また喋ってるよ・・・)
荒井牧場さんは、フリーストール牛舎といって、牛たちは牛舎の中で自由に歩き回ることができます。そんな牛たちに囲まれながら作業を進めていきます。
牛の発情期は、19~23日の間隔で周期的に来ます。
基本的に牛は穏やかで危害を加えることはほとんどありませんが、発情期だと普段より積極的に接触してくることがあるとのこと。ちょっとドキドキしますが、頑張っていきましょう!
寝床と水飲み場に溜まっている糞をこの雪かきシャベルで落としてきます。それにしても成牛は近くで見ると本当に大きい!
水飲み場は自動掃除機が入らないので糞が溜まってしまいます。牛が滑らないように、綺麗に糞を掃除します。
牛たちが通路に立ち往生しており、なかなか通れません!
「ちょっとごめんねー!」と近寄っていくも、全く避ける気配なし!
手で押しながら狭い隙間を掻き分けて通ります。
何をしていてもジロジロと見つめてくる興味津々な牛たち。中にはペロペロと腕を舐めてきたりクンクン匂いをかいでくる子も。やっぱり発情期の影響か、いつもより積極的な牛が多い気がします。
元気な牛たちに少々怖気づきながらも、無事お掃除終了!これまた良い汗をかきました!
ミルクやり
ミルクやりの時間だよ~!
まだまだ慣れない牧場仕事、16時のミルクやりの時間を少しオーバーしてしまいました。あわてて仔牛の部屋に戻ります。いよいよお待ちかねのミルクやり。
仔牛は非常に繊細なので外から菌やウィルスを極力持ち込まないよう、まずは長靴をしっかり洗います。
仔牛にあげるミルクは荒井さんが作ってくれます。
仔牛はかなり繊細な生き物。絶妙な温度加減や、体調に合わせた配合が必要です。そのため荒井さん以外の人が作ったミルクだと、牛はいつもとの違いに抵抗を示すこともあるのだとか。
ミルクの容器はバケツに牛の乳頭をかたどった飲み口がついているもの。
洗浄は人間の赤ちゃん用の消毒液を使っているそうで、繊細な仔牛のためにかなり気をつかっているのが伺えます。
生まれて1〜2日間は実際に母牛から絞った生乳を与えるんだよ。初乳はとても栄養価が高いと言われていて、仔牛が健康に育つのに重要なんだ。
仔牛は本当に手がかかるし、難しい。でもやっぱり健康に育ってほしいし、そのために今でも毎日が試行錯誤の日々だよ。それでも弱いから手を尽くしても死んじゃうことはある。でもやっぱり何かあると今でもショックだけどね。
では、いよいよミルクをあげていきます。
生まれたての仔牛はなかなか自分で飲み口を見つけることができません。そのため小屋に入り、指で飲み口へと誘導してあげます。
仔牛によって飲むスピードや飲み方の上手さもそれぞれ。それでもみんなとにかく美味しそうにゴクゴク飲んでくれます。
1回であげるのはバケツに3分の1くらいの量。仔牛によって差がありますが、飲みきるまで平均して3〜4分程度かかります。この、仔牛にミルクをあげている時間がなんとも至福。
可愛いくて、癒されます。そんな一生懸命な仔牛に見とれながらミルクやりをしていると、「まいちゃん! こっち!」と、荒井さんに呼ばれました。
急いで駆け付けると、来たときに産気づいていた母牛の様子が変。よく見ると、仔牛の足が出てきています。もう出産間近です!
ご主人の力也さんが仔牛の足にロープをつけていきます。
荒井さんの「ほら、みんなロープを持って!」という掛け声で咄嗟にロープを掴みます。「え、私なんかがいいの?」そんなことを考えている暇はありません。
母牛が力むタイミングにあわせて大人4人で引っ張ります。
あとちょっと・・・!!
トゥルんっ!!!!
とうとう赤ちゃんが飛び出してきました!!
牛の赤ちゃんが本当にそのままお腹から飛び出してきた光景に衝撃を受け、立ち尽くす私・・・。生まれたての赤ちゃんは元気そう。しっかり息をしています。
何より驚いたのは母牛。これだけ大きな赤ちゃんを産むのに、声ひとつ上げずジッと静かに出産するんです。そして生み落とした瞬間すぐに立ち上がって赤ちゃんに駆け寄ります。
同じ牛舎にいるほかの母牛たちも寄ってきます。
みんなで赤ちゃんをペロペロと舐め続けます。
ほかの妊娠中の母牛も母性本能のためか、まるでわが子のように親牛以上に我先にと舐めまわしている様子が印象的です。
これはリッキングと呼ばれる母牛の習性なんだ。理由は所説あって、敵から赤子を守るためのにおい消しや、仔牛をリラックスさせるためのマッサージなどとも言われているよ。
一生懸命立ち上がろうと必死に息をする仔牛、そして仔牛を応援するかのように休むことなく強く体を舐めまわす母牛。生きようとするその仔牛のパワーと母の強さに圧倒されます。生命誕生の瞬間に遭遇するのはもちろん生まれて初めて。目の前で繰り広げられる神秘的な光景が現実のものとは思えずただただ立ち尽くし、気付いたら涙が溢れて止まらなくなっていました。
今日生まれた仔牛は「JP14743 1801 1」 。1週間遅れで生まれたため、通常より大きめのメスです。牝牛は、荒井牧場で約半年間育成されたあと、ナイタイ高原へ送られ種付けをします。妊娠したらまたここに戻って出産、その後はミルクを作ってもらいます。牧場で生まれる牛に名前はありません。
それでもこの光景を見たあとだと、「どんな命でも生命の誕生は奇跡であり、命は平等に尊いんだな」と、そんなありふれた言葉が突然説得力をもってグッと心に響いてきます。
仔牛は寒さに弱いため、冬場は生まれたあと少しの間、保育器に入れるそうです。母牛たちから泣く泣く離し、保育器に連れていきます。
「連れて行かないで」と必死にアピールする母牛。母牛とはもうここでお別れ。生まれてから一緒にいられるの時間は1時間もありません。かわいそうですが、牛は経済動物。人間の手で守らなければなりません。
温かい保育器に入れたら仔牛ともお別れ。
色んなドラマがありましたが、今日の作業は以上で終了!更衣室で着替えたあとは、牛の管理データを見ながら荒井さんと団らん。
荒井登喜子さんは愛知県からここ上士幌に嫁いだことをキッカケに、それまで全くの未知だった酪農の世界に足を踏み入れ、これまでご主人と二人三脚で荒井牧場を作ってこられました。
荒井さんご自身もこちらに来て初めて酪農を知り、やっていくうちに酪農の魅力に気付いたんだそうです。今は機械化のおかげで肉体的な負担も減り、昔のように24時間365日休みがないということはありません。「しっかりやっていれば経済的にも安定するし、休みはあるし、牛は可愛いし、良いことだらけだよ!」荒井さんはそう語ります。
「若い人たちに実際の酪農現場を見てもらって、少しでも酪農のイメージが変われば」そうした思いで、今回私たちに仕事のご依頼をいただきました。
私も今回人生で初めて酪農家さんのお手伝いをさせていただき、牛たちの可愛さと強さに触れ、動物を扱う仕事の責任の大きさを感じると同時に、その面白さも強く実感することができました。
上士幌に来ていなかったらおそらく一切酪農のことを知ることもなく、牛と触れ合うこともなく、経済動物として生きる牛の一生について考えることもなく、過ごしていたことでしょう。もちろん私がお手伝いした作業は全体のごく一部ではありますが、それでも酪農が一気に身近に感じられるようになり、大変貴重な経験になりました。
ちなみに、私たちJICA訓練生4人はこの牧場の仕事がみんな大好き。自分の番が来る日を楽しみに毎日を送っています。
かみしほろ人材センターではこうした酪農家さんのお手伝いなど、普段できないようなお仕事の依頼が来ることもあります。私自身も今回荒井牧場さんで働いたことで、酪農の現場を少しでも知ることができ、そしてかわいい牛たちに触れ合えて、本当に良い経験になりました。
荒井さん、ありがとうございました!モウくんも今日はいろいろと教えてくれてありがとう!