インタビュー「MY MICHI プロジェクト」が目指すもの
2020年度から新たにはじまった「MY MICHI プロジェクト」は、日本全国の若者たちと上士幌町をつなぐプロジェクト。若者たちが上士幌町に1カ月間滞在して共同生活を送りながら、人や自然、産業など、上士幌町の資源を活用したさまざまなプログラムを体験します。この事業を企画した西村剛さんに、プロジェクトへの思いを聞きました。(制作・ホロロジー編集部)
プロフィール・MYMICHIプロジェクト担当
西村 剛さん
大阪府出身。広告代理店を経営する傍らで、起業支援や被災地支援などにも関わる。2018年に上士幌町に移住、(株)生涯活躍のまちかみしほろに参画。「若者の可能性を広げたい」との思いから、「MY MICHI プロジェクト」を企画。
参加者に出会いを提供するプロジェクト
――「MY MICHI プロジェクト」とは、どのような事業なのでしょうか。
西村:一言でいえば、若者に「新しい出会い」を提供するプロジェクトです。僕は出会いとは偶発的なものだと思っているんです。でも、ある一つの出会いが人生を変えてしまうこともありますよね。それをプロジェクトとして用意したのが「MY MICHI プロジェクト」です。僕は「心の琴線に触れる」と表現していますが、琴線となる出会いをこの上士幌町で用意して、それを参加者に体験してもらうイメージです。
――なるほど。具体的にはどんなことを?
西村:参加者はこの上士幌町で1カ月間の共同生活を送りながら、町の資源を体験していきます。それは町に住む人だったり、自然だったり。例えば、三国峠からのサイクリングや糠平の大自然でのネイチャートレイル、広大な牧場の敷地内でのウォーキングなど、どれもこの上士幌でしかできない体験なんです。糠平や三股に行くとその自然のスケールに圧倒されますよ。それが都会の若者から見れば今までにない体験になる。「一生忘れられない体験」って素敵じゃないですか。それを日常から少し離れたこの上士幌町で体験してほしいんです。
――聞いているだけでワクワクしますね。
西村:町に住む人たちとの出会いもあります。上士幌町には、自分の好きなことを長く続けていたり楽しんでいる人が多いんです。例えば、50年以上も木彫りの熊を彫り続けている人がいる。その人は、ただ好きだから熊彫りを続けているんです。この上士幌で革新的な取り組みに挑戦する人たちや、この町に来たことで夢を叶えた人たちもいます。そんな町の人たちと接して生き方に触れていく。そんな体験を通して、参加者それぞれが「自分の道」に出会えてくれたらなと思います。
――なるほど、それで「MY MICHI(マイミチ=自分の道)」なんですね!
西村:良いネーミングでしょ(笑)。
実体験がプロジェクトを生むきっかけに
――お話を伺っていると、すごくたくさんの町の方たちが関わりますね。そしてそれがこのプロジェクトの要であるように思えます。
西村:この「MY MICHI プロジェクト」は、若者が単に上士幌町に来て過ごすだけのプログラムではありません。この町の人や自然といった資源が、どれほどの価値を持っているのかが試されるプログラムでもあると思っています。参加してくれた若者にこの町の資源がどれだけの刺激を与えられるかが知りたいんです。
――なるほど。
西村:それは自分が移住者としてこの上士幌町で生活をして、この町の資源に出会えたからこそ、自信が持てる部分でもあるんです。僕自身が上士幌町に来て町の人たちと出会い、町の自然や歴史を知り、体感することで多くの刺激を得ました。上士幌町には、本当に素晴らしい資源があると思ったからこそ、このプロジェクトを企画したんです。この町はとても大きな可能性を持っていますよ。
――ご自身の経験も、このプロジェクトを生むきっかけになっているのですね。
西村:はい。僕は大阪で広告代理店を経営していたのですが、あるとき無理をして体調を崩してしまったんです。それで会社をほかの人に任せて、少し休むことにしたんです。そんなときにご縁があって十勝と出会いました。それまで「回復できるのだろうか」とか「この先どうしよう」などと、自分の生き方とうまく向き合えないモヤモヤしていた気持ちがあったのですが、十勝に来てこの大地に住む人たちとの出会いや体験を通していろんな気持ちが整理されて、前を向けるようになった。この体験を、特に若い世代の子たちにも追体験してほしいと思ったんです。
――西村さんご自身が、この十勝で経験したことが原点になっているんですね。
西村:そうです。それから時を重ねて2018年に上士幌町へ移住し、「MY MICHI プロジェクト」に挑戦しています。
――十勝と出会い、上士幌町に移住したことで、今も自分の「MY MICHI」を歩み続けているんですね。
西村:カッコよく言えばそうですね(笑)。
生き方には選択肢があることに気づいてほしい
――参加対象を若い世代に絞っているのは、理由がありますか?
西村:今、20〜30代で「自分探し」をしている若者ってすごく多いと思うんです。特に都市部では「本当の自分てなんだろう?」とか「本当にこれが自分の望んだ生き方なんだろうか?」といって、モヤモヤした毎日を過ごしている若い子たちって、たくさんいるんだろうなと。でも僕は、モヤモヤした状態は決してネガティブなものではないと思っているんです。悩んだりモヤモヤしているのは、前に進みたいと思っているからなんですよ。
――はい、わかります。
西村:モヤモヤしていることで、自分と真剣に向き合うこともできる。でも向き合いすぎると、逆に自分を追い詰めてしまうこともあると思う。そうなる前にこの「MY MICHI プロジェクト」で、上士幌町で暮らす人たちに触れ、「こんな生活や生き方もあるんだ」ということに気づいてほしい。人生の道は一つだけじゃない、選択肢はたくさんあるし、そこに気づくことが大事なことだと思うんです。
――確かに、悩んだり迷っているときこそ、視野を広げることは大切ですね。
西村:先ほど、木彫りの熊を彫っている方がいると言いました。その方に「すごいですね」と言っても「いや、俺はこれしかできんから」って謙遜するんですよ。でもその姿勢から、木彫りへのプライドや向き合い方がわかる。誰かに認められるためではなく、本当に好きなことを、人生を通してやり続けているんだということがわかる。そんな人と向き合っていると、自分の人生や生き方について考えさせられますよ。
――なかなかできることではありません。
西村:でも僕たちから見ればすごいことでも、その人にとってはそれが「普通」なんです。そんな「普通」を見ていると、それが生きるということなのかなと思う。そんな人たちと関わることで、自分の道が見つかることもあるんじゃないかって思うんです。
町と「関係」を持つ人たちを増やしていきたい
――このプロジェクトは、最終的には若者の「移住」を目指しているのですか?
西村:いえ、移住ではなく上士幌町の「関係人口」を増やすことが目的です。上士幌町の人たちは、外から来た人を本当に温かく受け入れてくれるんです。都会から自分の道を探している若者が来る、それを町の人たちが受け入れる。そこに新しい出会いが生まれる。その循環をつくりたい。
――出会いの循環。素敵ですね。
西村:上士幌町の関係人口施策のモデルは「MY MICHI プロジェクト」ですと言えたら、すごく素敵なことだと思うんです。1カ月という時間をこの町で過ごすことで、抱えていたモヤモヤが少しでも解消されたり、自分の進む道が見つかったなら、その事実こそがこの町との「関係」だと思う。
――このプロジェクトは「関係づくり」のきっかけということですね。
西村:そう、きっかけです。でもそのきっかけが、後の人生で大きな意味を持つきっかけになってほしい。それは参加者だけでなく、町の人たちにとっても同じです。
――町の人たちも参加者と触れ合うことで、得られるものがある。
西村:上士幌町には、本当にいろいろな人がいます。釣りが大好きで、自分で釣った魚を調理して振る舞ってくれる人。庭仕事が得意で、高齢者ができなくなった庭仕事を率先して手伝ってくれる人。みんな「大したことないよ」って謙遜するんです。でも僕にはそれがすごく輝いて見える。そんな素敵な人たちも、このプロジェクトを通じて若者に見せていきたい。
――先ほどの言葉でいえば「普通」に「すごい」人たちが、この町にはたくさんいるということですね。
西村:冒頭に、このプロジェクトは「若者に新しい出会いを提供する」と言いました。でもそれは町の人たちにとっての出会いでもある。町の人たちも、若者と接することで自分たちが持っている価値や可能性に気づいてほしいと思う。そこに関係が生まれていく。そうやって、上士幌町と関係を結んでいく人たちが増えていったら、それはとても素敵なことだと思うんです。
2020年11月、全国から5人の若者が上士幌町に集まり、「MY MICHI プロジェクト」は本格的にスタートしました。彼らはこのプログラムを通じて、「心の琴線に触れる」多くの出会いがあったそうです。
インタビュー中、西村さんは何度も「出会い」という言葉を口にしました。新しい出会いを提供することで、それが参加者と町の人たちそれぞれに影響し合い、新たな気づきや選択肢へとつながっていく。それが時に人生の大きな分岐点となることを西村さんは知っています。
だからこそ生まれた「MY MICHI プロジェクト」。この事業を通じて、多くの出会いが生まれていくことを願っています。
※「MY MICHI プロジェクト」の事業内容については、こちらの記事をご覧ください。