より良い人生を送るために心をサポート「〇まる」田岡弘子さん
上士幌町では、起業・第二創業・新規事業展開の促進と支援を目的として、2018年度から「かみしほろ起業塾」を開催しています。
かみしほろホロロジーでは、かみしほろ起業塾の受講を経て、なりわいを自分で創ることに挑戦している方へのインタビューを行い、紹介しています。
今回は、2023年度のかみしほろ起業塾を受講し、2024年9月にメンタルヘルスサポートサロン「〇まる」を開業した、田岡弘子さんにお話を伺いしました。
メンタルヘルスサポートサロン「〇まる」
田岡 弘子さん
|たおか・ひろこ|帯広市生まれ。南富良野町で育ち、小学校6年生のときに上士幌町に転居。高校卒業後は看護師の道に進む。患者さんへの心のケアを大切にし、定年まで看護の仕事に従事。2019年に取得したメンタルトレーナー資格を活かし、多くの人の心をサポートしたいという思いから、上士幌町に2024年9月メンタルヘルスサポートサロン「〇まる」を開業。
メンタルトレーナーは、心の健康を保つサポーター
――「〇まる」の開業、おめでとうございます。田岡さんはメンタルトレーナーとして起業されましたが、そもそもメンタルトレーナーとはどんなお仕事ですか?
個人がかかえるさまざまな心の課題を解決し、夢や目標を実現するためのサポートを行う仕事です。心のありようが人生や仕事に与える影響は大きいものです。メンタルトレーナーは、心の健康を保つためのサポーター役でもありますね。
――カウンセラーとも少し違う感じでしょうか。
カウンセラーは、心に悩みや課題を抱えている人に対して、悩みを解消したり心の健康を回復させる仕事です。
メンタルトレーナーは、カウンセリングと重なる部分もありますが、トレーニングで思考を変えていったり、パフォーマンス向上にもつなげていくところが大きな違いでしょうか。
最近は、プロスポーツ選手などにもメンタルトレーナーが付くことが多いです。例えばメジャーリーグで活躍する大谷選手も、トレーナーが付いていると思います。
――主に精神面をサポートしていくんですね。
そうですね。
例えば、親が心配症だと子どももその影響を受けて心配症に育つことがあります。それによって対人関係がうまくいかなかったり、生きづらさを感じることもありますが、トレーニングでこれを変えていくことができます。
筋肉をつけるためにトレーニングするように、心もトレーニングで変えることができるんです。
――心を軽くするだけでなく、思考をポジティブにもするのですね。
田岡さんはメンタルトレーナーの資格も持っていらっしゃるんですよね。
「北海道メンタルトレーナー協会(EMA)」のトレーナー資格を持っています。
EMAでは「自己責任」「自己肯定」「感謝」という3つの人間力を大切にしていて、これを軸に多くの人たちに役立つトレーニング方法をお伝えしています。
EMAメンタルトレーナーの資格認定証書
心のケアと向き合い続けていた看護師時代
――起業の経緯もお聞きしたいのですが、先になぜメンタルトレーナーの勉強をしようと思ったのか、聞かせていただけますか。
私は小さいころから看護師になりたくて、高校を卒業してからずっと帯広市で看護師の仕事をしていました。
長く仕事をさせていただきましたが、2016年に勤務先の病院でメンタルケアに関する研修があって受講したんです。
そこで「自己責任」「自己肯定」「感謝」の3つの人間力の話を聞きました。
――きっかけはその研修だったのですね。
私は母親が似たような話をいつも聞かせてくれていたので、その話と重ねて聞いていたのですが、同僚たちの多くは初めて聞く話だったようで、私はそのことに驚いたんですよね。
そこでこういう仕事もあるんだなと思いました。
その流れで、EMAが開催しているメンタルトレーナー養成講座があることも知ったので、看護の仕事にも活かせると思って入会と受講を決意したんです。
――なるほど。
実際に受講中に学んだことは、患者さんへの接し方や言葉のかけ方などに役立ちました。
私は看護師の仕事で何が楽しかったかというと、患者さんとの会話なんです。
医師の診察をサポートしたり、患者さんの状態を診たりもしますが、患者さんが私と会話をして笑ってくれることが一番の喜びでした。
また、年齢を重ねていくと、患者さんやご家族の方だけでなく、同僚や後輩からも悩みを相談されたり話を聞く機会も増えていきました。
そんなときにもメンタルトレーナーの勉強はすごく役に立ちました。
患者さんの笑顔が喜びとお話する田岡さん
――もともと人の話を聞くことは好きだったのですか?
はい、そうだったんだと思います。
振り返ると、小児科や精神科、ICU(集中治療室)など、いろいろ担当させていただきましたが、特にICUでは重篤患者の方の生死と直面することが多く、そのころから患者さんやご家族の方などの話をよく聞いていました。
当時から会話を通じて患者さんの気持ちが少しでも和らいでくれることがうれしかったですね。
お話を聞くことで役に立ちたいという気持ちから、緩和ケア(病気に伴う心と体の痛みを和らげること)やターミナルケア(終末期医療)をする病院に在籍していたこともありました。
――ずっと患者さんの心のケアと向き合ってこられたのですね。
はい。その経験から、メンタルトレーナーの資格を活かした仕事ができたらと思うようになりました。
かみしほろ起業塾を受講したことで視界がクリアになっていった
――それが起業にもつながっていくのですね。具体的にはどんなきっかけがあったのですか?
2023年4月に看護師を定年退職し、6月に母親の介護もあって上士幌町に戻ってきました。
それでも仕事はしたかったので、資格を活かした仕事を探していたのですが、なかなか見つからなくて。
そんなとき、新聞の折り込みに「かみしほろ起業塾」のチラシを見つけて「これだ!」と思って申し込みました。
――退職の時点で次は起業と考えていたのですか?
いずれ介護が落ち着いたら自分で開業するのもいいかなと思ってはいましたが、まだ先の話だと考えていました。
でもチラシを見たときに、なぜかピン! ときたんです(笑)。
すぐに起業できなくても、話は聞いてみたいと思いました。それですぐにハレタかみしほろに連絡して「起業塾って何をするんですか? 私でも受講できますか?」って。
――その行動力が素晴らしいですね。実際に受講していかがでしたか?
私は起業のやり方を教えてもらえると思っていたのですが、実際にやったのは事業計画書をつくることでした。
そんなのやったことないし、どうすればいいの? と最初は不安に思いましたが、まずはやってみようと思考を切り替えて、一つひとつ項目を埋めていきました。
やってみると案外書けるもので、起業に向けて何をやっていくかの確認にもつながりました。
計画書を書き上げたころには、自分が起業しているイメージがハッキリ持てるようになりましたね。
自宅の一室を改装した「〇まる」のセッションルーム
――ぼんやりしていた視界がハッキリしてくるわけですね。
はい。
参加した最初のころは本当に起業できると思っていませんでしたが、回数を重ねるうちに頭のなかが整理されていって具体化していきました。
起業イメージがクリアになると、介護が落ち着くのを待つ必要はないなと思うようになって、介護をしながらでもできることはあるんじゃないかと、考え方も変わっていきました。
――それが起業の決断につながったと。
実は自宅に戻るタイミングで部屋を一つ改装していたんですが、よく見ると誰かと会話するのに広さもちょうどいいぞと。
もしかして起業するなら今? と思って、もうここでやろうと思いました(笑)。
――まさにタイミングだったのですね(笑)。
私の場合、もともとお金を稼ごうという動機はなくて、ボランティアでもいいから誰かの悩みを聞いたり相談を受けられたらいいなと思っていたので、実際に起業するとなったときにはうれしい気持ちと驚きの両方がありました。
町の皆さんが楽しく幸せな人生を送るために貢献したい
――ところで「〇まる」の由来は何でしょうか?
事業計画書に会社名を書く欄があったのですが、すぐに決められないので、とりあえず「〇〇〇」と入れておいたんです。
でもあるときにふと「あれ?『〇』でいいんじゃない?」ってピン! ときて。
――ここでもピン! と。
「〇」って覚えやすいし、いろんな意味がありますよね。
ご縁(円)だったり、つながる輪(円)だったり。優しさや柔らかさも感じますし、ありのままの自分でもいいんだよ(〇)というメッセージにもなると思ったんです。
この看板が目印です
――私は「小さくても大きくても〇」という意味もあるのがいいな、と思いました。
EMAの考え方に「良いも悪いもない」というのもあって。その価値観も「〇」に込められるとも思いました。
また、メンタルヘルスというと、まだまだ重かったりネガティブなイメージがあると思いますが、私はもっと気軽に話したいことを話せる場所をつくりたいんです。欧米などはすごく進んでいて、メンタルヘルスやカウンセリングは生活の身近なところにあるんですよね。
――確かに、欧米に比べると日本ではこの分野は遅れているイメージがあります。
人生を歩んでいると、いろんな悩みと対面します。子育て世代には子育て世代の、介護世代には介護世代の悩みがありますし、職場の人間関係だったり進路の悩みもあるでしょう。
生きていれば思いがけないことが突然起きたりもしますし、それで気持ちや感情が乱れることもあります。
でも、どんなときでも思考をポジティブにできれば乗り越えられると思いますし、幸せな人生につながると思います。
――素晴らしい思いですね。ぜひこれから頑張ってください。
ありがとうございます。軌道に乗るには時間がかかると思いますが、上士幌町の皆さんが楽しく幸せな人生を送るために、小さなことでも「〇まる」に話してもらえるような存在になりたいと思っています。
周りで起きる出来事やかかわる人たちへの感謝を忘れずに、これから活動していきたいと思います。
イキイキとした笑顔が印象的でした
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看護師時代に積み重ねてきた経験も含めて、今につながっていたのではないかと思えるほど、田岡さんは一貫して人の心と向き合ってきました。
田岡さんは「どんな出来事も心の成長につながる」と考えています。その信念があるからこそ、多くの人に寄り添い、支え続けてきたのだと思います。
これからはその力と経験を、上士幌町で役立てていくことでしょう。田岡さんの新たなチャレンジを応援します。
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