大雪山の大自然に抱かれた糠平で学ぶ!見る!遊ぶ!
自然が自慢の上士幌町の中でもとりわけ豊かな大自然に囲まれ、大雪山国立公園にも含まれている糠平(ぬかびら)地区。糠平の自然なら何でも知っているというネイチャーガイドの河田さんに、ネイチャートレイルを案内していただきました。
WRITER
伊藤 卓巳
三重県出身。MYMICHIプログラム2期生。青年海外協力隊としてウズベキスタンで観光業に携わっていましたが、コロナの影響で一時帰国。初上士幌どころか初北海道ですが、壮大な景色と美味しい食事に日々感動中。
糠平の生き字引!? 自然を愛してやまないスーパーガイド
NPOひがし大雪自然ガイドセンター代表の河田さんは、糠平の自然のことなら何でもご存知というスーパーガイド。しかしご出身は岡山で、札幌転勤をきっかけに「北海道に住みたい!」という思いが強くなり、糠平にやってきたとのこと。そして、糠平を包み込む大雪山の自然と、糠平の人々の温かさに惚れ込み、移住してしまったのだそうです。
現在も上士幌随一の観光地として立ち寄る人が多いぬかびら温泉郷ですが、かつてはバスツアーなどで数多くの宿泊客や湯治客が訪れ、今では考えられないにぎわいようでした。しかし河田さんがこの地にやってきたときは訪問客が減ってホテルの廃業も目立つようになり、いわば落ち目の温泉地になっていたそう。
そんな中、河田さんは糠平で「早朝エゾシカ観察ツアー」を開始させ、これが大ヒット。当時はこのようなツアーは珍しく、今では当たり前になっている体験型観光がやっと注目されるようになった時代でした。その後、さまざまなネイチャーツアーの企画や学校遠足の受け入れを行い、2001年にNPOひがし大雪自然ガイドセンターを立ち上げました。現在は有名なタウシュベツ川橋梁のツアーをはじめ、サイクリングツアーやワカサギ釣り体験などユニークなツアーを実施しています。
さらに「自然体験や環境教育、環境保全を通じて上士幌を元気にしたい」という思いから、地域の学校で環境教育プログラムを行っているとのこと。人生の半分以上を糠平で暮らし、糠平の生き字引といっても過言ではない河田さん。この上士幌町から第二、第三の河田さんが生まれ、この地の自然への思いが受け継がれていくことを、私たちも願っています。
目からウロコの連続! ネイチャートレイルウォーク
ひがし大雪自然ガイドセンターで河田さんのお話をお伺いしたあと、タウシュベツ川橋梁展望台へのネイチャートレイルを歩きました。
トレイル入口にはさっそく「ヒグマ注意」の看板が出てきて足がすくみますが、河田さんは長い間ガイドをやっていて1回もヒグマに出くわしたことはないそう。ただヒグマがトレイルを横切ったのは見たことがあるそうです。
その証拠に、看板にはヒグマが噛んだ痕が…。
トレイルに入ってすぐに、落ち葉に覆われたまっすぐな道と交差します。これが廃線になった国鉄士幌線の線路跡。1978年までここを列車が走っていたのです。もう永遠に列車が走ることはないでしょうが、すぐに線路跡だと分かる存在感がここにありました。
ここからは鬱蒼とした森林。ここの森林地帯で主に見られる木は、幹が黒がかったエゾマツと灰色のトドマツ、カエデ、ナナカマド、ミズナラ、クルミなど。針葉樹と広葉樹が混在している針広混交林にあたるそうです。エゾマツやトドマツといった針葉樹は硬くて丈夫なことから風よけや雨よけ、雪よけになり、一方広葉樹は木の実など食が得られる木が多いとのこと。ここに生えている木は古くから人間の生活を支えてきた木ばかりなのです。
上士幌町や糠平は林業に支えられてきた土地なのですが、近年は安い外国産の木材が流通しており、ここに限らず日本の林業は苦境に陥っているそう。前述の士幌線が廃止された理由の一つも、木材の輸入自由化に伴う林業の衰退でした。
河田さんは「ミズナラの巨木」と書かれたプレートの前で立ち止まりました。この巨木の胸高直径は156cm、周囲は490mと書かれています。胸高直径とは文字通り人間の胸の位置(高さ約130cm)に当たる木の幹の直径で、これがさまざまなデータの基準となります。
ここに書かれている直径は2009年のものとのことで、最新の胸高直径を知るべくメジャーを取り出して計測する河田さん。
計測した結果、現在の胸高直径は164cmと分かりました。9年でおよそ8cm大きくなったのですね。
河田さんは今度は謎の道具を取り出しました。これは何と木の高さを測る道具。二等辺三角形の原理で、木の頂点と地平との角度が45度となる場所を見つけ、木から自分の立ち位置との距離を測ることで木の高さも算出できるという方法です。
これを使い、木の高さが約20mということが分かりました。
今まで知りえなかった林業の知識や計測方法を知ることができ、目からウロコの連続だったネイチャートレイルウォークでした。
絶景、タウシュベツ川橋梁を対岸から
ネイチャートレイルは200mほどで突き当たりに。ここがタウシュベツ川橋梁展望台です。
今や十勝を代表する絶景になったタウシュベツ川橋梁。
国鉄士幌線の一部として架けられた橋ですが、糠平ダムが建設され線路が湖底に沈むことになり、新しい線路を建設することになったため、1955年に使用されなくなりました。しかし湖の水位が下がってくると、ローマ遺跡を思わせる美しいアーチ橋が湖面に現れてくるのです。これが幻の橋とよばれるゆえんで、周りの風景に絶妙にマッチしたこの儚げな橋は多くの観光客を魅了しています。
例年ならこの時期すでに湖面に沈んでいますが、今年はまだギリギリ見られるとのこと。展望台に着くと、遠目ですがしっかりとその姿を確認することができました。
このタウシュベツ川橋梁に近づくための方法は、ひがし大雪自然ガイドセンター主催のツアーに参加する、森林管理署(営林署)で訪問許可証をもらって自家用車で行く、のいずれか。JR北海道のポスターに載ったことで観光客に認知され、近年はSNS効果やカメラ女子ブームもあってツアーに参加する人が絶えないそう。しかし河田さんは、単に景色を楽しむだけではなく、ツアー客にこの地の自然や歴史についても知ってもらいたい、記憶に残るような爪あとを心に残したいとおっしゃっていました。
ここで森から「ギィ…ギィ…」と、ヒグマのうなり声にも聞こえる不気味な音が。一同びくびくしていると、倒れかけている木が別の木とこすれ合う音だから安心して、と河田さん。確かに上を見ると隣に寄りかかっている木がありました。河田さんがいないときにこの音を聞いたら、一目散に逃げ出していたかもしれません。
しかし、すぐそこの木でヒグマの爪あとを発見。ヒグマはこの森に自分がいることをアピールするために木に爪あとをつけてマーキングをし、しかも自分を強く見せるためにわざと高い所にあとを残すそうです。やっぱりいきなりヒグマに出会うのは怖い…。
ガイドセンターに戻るとタウシュベツ川橋梁についての新聞記事が展示されていました。老朽化が進むこの橋は残念ながら崩壊がどんどん進んでいるのですが、毎年新聞に「今年崩落か?」「もう見納めか?」と書かれていました。今この目で見られたことに、カムイに感謝です。
最後は楽しいアウトドア遊び!
ガイドセンターに戻ったあと、河田さんがアウトドアで役立つノウハウや道具を使ったアウトドア遊びを教えてくれました。
まずはロープの結び方、いわゆるロープワーク。こちらはエイトノット(8の字結び)で、ロープを使った山登りの際に便利な結び方。
さらに強度が強いダブルエイトノット(二重8の字結び)もあります。
二つのロープを結んで一つにするのに使われる結び方が、フィッシャーマンズノット。救助者を助けなければならない際、手持ちのロープが短いときにも使えるとのことです。
が、普段絶対に習わないであろう結び方に私たちは四苦八苦…。
次に出してくれたのはこんなロープ。
これは滑車を使った「仕事の原理」を応用したロープで、この構造だと相手の力の3分の1の力で引っ張ることができます。幼稚園などでこのロープを使って綱引きをすると、子どもでも大人に勝てるので大喜びなのだとか。
最後に体験したのがスラックライン。最近日本でも愛好者が増えてきた遊びで、ぴんと張った細長いベルトの上をバランスをとりながら渡ります。
が、、、これがなかなか難しい! 一番良くできたメンバーでも数歩しか歩けませんでした。
しかし動画サイトを見てみると、常人には考えられないような凄技が見つかる見つかる。ベルト1本で飛んだり跳ねたりできるなんて、やってみると奥が深そうです。上士幌に移住して庭付きの広い家を手に入れたら、買って楽しまなければ。
駐車場に戻ると、私たちを見送ってくれるかのようにエゾシカが立っていました。
北海道の大自然の豊かさと、そこで生きる人々の知恵に触れることのできる場所、糠平。特にタウシュベツ川橋梁は、人と自然が共存して歩んできたこの地の歴史の象徴だと感じました。その糠平をくまなく知る河田さんにご案内していただき、貴重な学びの時間となりました。自然を学ぶことの楽しさと大切さを、上士幌町の方々も含め今後多くの人々と共有していければと思います。