酪農を知ろう! 荒井牧場見学 〜機械化する酪農の形~
2020年11月から「MY MICHI プロジェクト」第2期に参加した私は、プログラムでサンクローバーさんを見学し、その模様をこのホロロジーに掲載しました。そしてプログラム終了後も上士幌町に残ることにしたのですが、せっかくこの町にいるのならば、酪農が盛んな上士幌町のもっといろんな酪農の形を見てみたいと思いました。
ということで、今回は、萩ヶ岡地区にある荒井牧場さんにお邪魔しました。驚いたのは、「牧場のお仕事ってここまで機械化されていたの?」ということでした。酪農の世界で働く皆様には、見慣れた機械かもしれませんが、酪農をまだまだ知らない私にとっては目新しいものばかり。皆さんも、機械化された酪農の形を一緒に見てみませんか?
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WRITER
苅谷 美紅 (かりや みく)
北海道千歳市出身。MY MICHI2期生を経て、取材メンバーとして活動しています。1ヶ月だけのつもりで来た上士幌生活に魅了され、気づけば5ヶ月目に突入。
荒井牧場の転換期
荒井牧場さんは、代表の荒井力也さんと奥様の登喜子さん、お二人で経営されています。現在の牛の頭数は搾乳牛120頭、育成牛110頭。畜産クラスター事業をきっかけに、平成28年に、牛舎内に牛を固定・つなぎ留めて飼養する「繋ぎ飼育」から、休息場とエサ場を自由に行き来できる「フリーストール牛舎」に方針を転換、「搾乳ロボット」をはじめ新たな機械を導入しました。聞くと今では、荒井牧場さんのように搾乳ロボットを導入したり、機械化が進んでいる牧場も少なくないのだそうです。
その『搾乳ロボット』がこちら。
牧場で活躍する機械① 『搾乳ロボット』
なんと24時間全自動で稼働し、1台につき1日60頭の搾乳ができます。荒井牧場さんにはこの搾乳ロボットが2台あり、1日に120頭の搾乳を自動で行っています。
自動搾乳の様子はこちら▼
牛たちは自ら搾乳ロボットに入ってきますが、これは美味しい餌で呼び込んでいるのです。この搾乳ロボット、3頭連続で問題が起きると、通知が来るシステム。外出中や夜間に通知が届くこともありますが、いち早く対応することができているそうです。
そしてその搾乳データは全て、このパソコンで管理されています。
搾乳されたミルクの量や搾乳に失敗した回数といった、搾乳に関する情報をはじめ、体重や発情予想などもこのパソコンで確認しています。肉体労働のイメージが強かった酪農のお仕事が、だんだんとデータで管理する仕事に変わって来ているのだと感じました。
搾乳ロボットを導入する前は、1頭1頭、乳房炎になっていないかの確認、乳首の洗浄や消毒、搾乳機の取り付けなど、手作業で行なっていたそうです。24時間自動で搾乳が行われることで、搾乳に張り付いている必要がなくなり、ご夫婦2人という少ない人数で牧場経営をするための大きな負担軽減に繋がっているのですね。
牧場で活躍する機械② 糞尿をかき集める『スクレーパー』
続いては、牛の糞尿をかき集める装置。
長い牛舎を頻繁に掃除するのにとても便利な『スクレーパー』です。通常スクレーパーというと、床にこびりついたガムなどを剥がすヘラの形をした工具を指します。牛舎で活躍するスクレーパーは、ロープに繋がれた矢印のような形をした鉄状の装置で、これが地面の糞尿をかき集めていきます。なんとなく、スクレーパーのイメージは湧きましたか?
では、実際に動いている様子をご覧ください▼
牛は1頭につき1日約60kg前後の糞尿をします。荒井牧場さんのように120頭の搾乳牛がいれば、1日に720kgの糞尿を処理する必要があります。集められた糞尿は、ピットという溝に落とされ、巨大な堆肥場に運ばれていきます。
牛の寝床と餌場の間には、数カ所水飲み場が設置されていますが、そこの糞掃除、寝床の糞掃除は雪の降る地方ではお馴染み、雪かきをするための道具『ラッセル』を使い手作業で行われていました。手作業で通路に落とした糞尿は、スクレーパーによって運ばれていきます。
牧場で活躍する機械③ 『餌寄せロボット』
こちらは『餌寄せロボット』。広がった牛の餌を、食べやすいように牛の顔の近くまで寄せてくれます。
その様子がこちら▼
まるで巨大なロボット掃除機のようです。この餌寄せロボットが設置されていない外の餌場では、雪かきの『ラッセル』を使い手作業で餌を寄せていました。
牧場で活躍する機械④ 『哺乳ロボット』
ところで、私と同じ時期に上士幌町に滞在していたJICA訓練生が行っていた、荒井牧場さんでの酪農チャレンジの記事はもうご覧になられましたか?
▶︎かみしほろ人材センターで酪農にチャレンジ!(前編)~餌やり編~
▶︎かみしほろ人材センターで酪農にチャレンジ!(後編)~ミルクやり・お産立ち合い編~
この記事では手作業でミルクを飲ませていましたが、手作業で飲ませるのは生後1週間程度まで。生後1週間を過ぎてから生後60日まではこちらの哺乳ロボットを用いて自動でミルクが与えられています。
1頭につき1日4回(1回500ml×4=2L)。まだ飲ませる必要がある仔牛がピットに入ってきた場合は、乳首がぴょこっと出てくる仕組みです。
機械の洗浄も自動で行われるため、荒井さんご夫婦が日常的に行っているのはミルクの補充だけなのだそう。哺乳ロボットはデータでの正確な哺乳管理ができ、1日に複数回に分けてミルクを与えることで子牛の消化効率を高めて下痢の発生を抑制するなど、仔牛にとってもいいことが多いのだそうです。
牧場で活躍する機械⑤ 『オートマチックトラクター』
最後にお見せするのは搾乳牛への餌やりの様子▼
車を走らせながら、餌を置いていました。長い牛舎でもこれなら短時間で餌をあげることができます。この車の全貌はこちら。
機械化で負担が減る酪農の仕事
「生き物を扱うため、1日も休むことができない」
「肉体労働で大変」
私を含め、酪農に対してそんなイメージを持っていた人も多いと思います。今は機械化が進んでいる牧場も増え、肉体的な負担はかなり軽減されているのだそうです。
荒井さんご夫婦も、初めは、機械化することに対して大きな不安があったと言います。機械がうまく作動せず、夜も眠れないのではないかと心配し、半年間は事務所に泊まり込む生活を覚悟もしていました。
しかし、当時大学生だった息子さんが休学をして導入のサポートをしてくれたこともあり、実際は一度も泊り込むこともなく、スムーズに機械化に移行できました。一方で、全てがデータ化されるため、些細なことに気づき過ぎてしまうこともあるそうですが、従来の飼育手法に比べたら格段に負担が軽減されていることから「もっと早く機械化すればよかった」と登喜子さんはおっしゃっていました。
そしてその息子さんが牧場を継ぐことも決まり、荒井牧場さんにとっては、機械化が牧場を良い方向に導いてくれたようです。「酪農のイメージが良くなったらいいな」そうおっしゃっていた登喜子さんですが、この町に来てから私は、間違いなく、酪農のイメージが変わりました。
1回目のサンクローバーさんに始まり、今回、見学させていただいた荒井牧場さん。上士幌にはさまざまな牧場の形があることを実感しました。私自身、まだ上士幌町に滞在しますので、これから先も、もっともっとさまざまな酪農の形を知れたらいいなと思います。
荒井牧場さん、ありがとうございました!