お父さんとの思い出の庭の手入れを、同じ町民が手助けしてくれた。
まちづくり会社が運営している「かみしほろ人材センター」では、上士幌町の法人や個人から短期で簡単な仕事の依頼を受け、人材センターの会員の方に仕事を行ってもらう仕組みがあります。センターの会員の方には、これまで培ってきた「得意なこと」や「できること」を活かしてもらっています。
お話をお伺いしたのは、自宅の庭の手入れを自身で行うことが難しくなり、他の人にお願いしたいと考えていた坂本キヨコさん。2019年から人材センターに庭の剪定を依頼しています。今回は坂本さんに人材センターを利用しようと思った経緯をお聞きしたのですが、そのうちに今は亡き、ご主人との懐かしいエピソードも聞かせていただくことになりました。(制作:ホロロジー編集部)
自宅に到着すると大きな庭が目の前に広がっており、既に作業も大詰めの状態でした。作業を行っていた寺戸さんにも少しお話を伺った後に、本記事の主役、坂本さんにお話をお聞きしました。
この日作業を担当した寺戸勝広さんの記事はこちら
お父さんの大好きな庭
ゆっくりと玄関に出てこられた坂本さん。ご年齢は90歳を越えたと言います。一歩一歩ゆっくりとした足取りで、開口一番「よく来たね」と声をかけていただきました。私たちも坂本さんに合わせるように、大きな声でゆっくりとした口調で声を掛けながら、お話は始まりました。
坂本:この庭はね、40年前以上前に作った庭なの。ずいぶん芽登石を入れたよ。山から沢山運んできてね。
――どのような経緯でお庭を作ったんですか?
坂本:お父さん(ご主人)が庭が好きでね。そのころ庭作りが流行っていたのもあるけどね。
――立派なお庭ですよね。
坂本:帯広のよつ葉樹石園さんがお婿さんをもらって、たしか彼が初めて作った庭がここだったはずだよ。でも、もう私のこの年齢では広すぎてね、草むしりばっかりせなきゃいかん。
――1日中ずっと草むしりしてるんですか?
坂本:そうだね。
――昔は家族みんなで庭の手入れをしていたんですか?ご主人がされていたんですか?
坂本:みんなでやってたのさ。お父さんが好きで作った庭だからね。お父さんが居なくなってもう18年になる。そこからは何回も庭の世話は止めようと思ったけど、投げるわけにはいかん。
――ご主人のために今でも庭を綺麗にしているんですね。
坂本:(庭木を)下から切ってしまおうかと思ったけど、嫁さんが「お母さん、父さんが怒るわよ」って言うの。だから、体が動くうちはお父さんのためにも頑張ろうって思ってる。
坂本:でもね、さすがに全てはできないからね。それで人材センターにお願いすることにしたんだ。そしたら庭のことをよく知っている寺戸さんが来てくれて。
――寺戸さんは、坂本さん宅の庭の手入れはやりがいがあるっておっしゃってました。
坂本:寺戸さんは頼もしいよ。
――あの中で一番好きな木はどれですか?
坂本:やっぱりオンコだね。今剪定してるでしょ、オンコの木。
――なんでオンコの木が好きなんですか?
坂本:上に伸びるより、横に広がる方が好きなんだよ。
――ご主人もオンコの木が好きだった?
坂本:うん。なんせ好きだったの。
楽しそうに話をしてくれる坂本さん。特にご主人の庭だからということを大変嬉しそうに話をしてくださいます。ただ、その嬉しそうな顔には少し寂しさも溢れているように感じ、ご主人のお話をもう少し聞いてみることに。
庭を守り抜く
――ご主人とはどこで出会ったんですか?
坂本:地域の催しで、盆踊りがあるでしょ?お父さんは太鼓叩くのが好きだったの。あのねじり鉢巻で、盆踊りのときに太鼓叩いていたんだよね。
――かっこいい!
坂本:格好よかったよ。私の弟が太鼓叩くのが好きだったから、そのときに弟がお父さんと一緒になってね。「お前に姉がいるのか」っていう話になったらしく、そこでお父さんと知り合ったの。小学校のグラウンドでだね。
――素敵な出会いですね!ご主人のお写真はあるんですか?
坂本:壁に掛けてあるよ。
――この写真を撮ったときのことを覚えてますか?
坂本:この庭を作ったときだね。庭を作って喜んで、2人でその石に腰掛けて写してもらった。たしか弟が写したんだ。
――ご夫婦で一緒に庭の作業をしていたんですか?
坂本:うん。庭作って喜んだときだ。
――楽しそう!
坂本:この庭を投げるわけにいかん。だから、今も手入れを頑張ってる。
――ご主人との思い出がたくさん詰まったお庭なんですね。
――ご主人が好きなものってなんでしたか?
坂本:酒だ。一升瓶買ってきたらね、底が見えるまで飲むからね。こっそり鉄の鍋にあけて減らしてた(笑)。あとは旅行が好きだった。うちのお父さんは旅行が大好きでどこでも行ってたよ。私はあんまり好きでなかったけどねえ。
――坂本さんは何が好き?
坂本:昨日娘が買ってきてくれた、なま寿司が好きだ。
――ハハハ(笑)。最後に、坂本さんにとって何が一番幸せですか?
坂本:そうだねえ。お父さんがいたらなあって時々思う。やっぱり寂しいわよ。でもこの庭はね、きれいにしておかないとね。
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愛しそうに庭を見つめる坂本さん。目の前に広がる庭はご主人との思い出がたくさん詰まっており、ご主人そのものだったのです。
町の困りごとを町民の得意なことやできることで補っていく。町の困りごとを解決をする「かみしほろ人材センター」は、人と人とをつなげる仕組みで成り立っているんだと、そんなことを感じることができた時間でした。今後も長くこの庭が元気であることを願っています。