けん玉のつなぐ可能性、上士幌に溢れる可能性【前編】
上士幌町には、上士幌けん玉キッズクラブ【K3club】があり、世界大会を目指している少年たちが日々活動しています。以前から上士幌町ではけん玉が盛んだということを知っている人は多くいるとは思いますが、そこには想像以上に熱い想いを持った大人たちの存在がありました。
WRITER
西村 奈々子
大阪出身。父が上士幌に移住。大学卒業まで、父が愛した上士幌に来ている大学生。私もこの町を愛したい。好きな場所は、サンクロスのステンドグラスの下。
上士幌町生涯学習センターわっかに到着
いつもコンビのように仲の良いお二人、髙橋克磨さん(右)と二宮翼さん(左)。お二人は上士幌けん玉キッズクラブで指導者をしておられます。
こんにちは〜。
こんにちは〜!!! 二宮ももうすぐくるからちょっと待ってて!
はい! お願いします!
元気な挨拶に、気持ちの良い声量で迎えてくれた髙橋さん。
こんにちは〜。
こんにちは! 今日はお願いします!
お願いします。
リラックスした挨拶に、こちらの緊張まで解いてくれるように迎えてくれた二宮さん。そして、髙橋さんと二宮さんは顔を合わせると笑顔になり、迷わず隣に座られました。
私たちはその周りと囲むように座って、お話を伺うことに。テンポよく繰り広げられる会話は聞いているこちらまでワクワクしてきて、終始笑いながら聞き入っていました。
何かを真剣にやるってカッコいい
今日はけん玉のことを聞きにきたんだっけ?
そうです。子どもたちが平然とカッコいい技を決めてるのを見たり、大人たちが本気でけん玉ハマってるのを見て、話を聞きたくて仕方なくなってきました!
なるほどね。嬉しいね。でも、けん玉の魅力を言葉で説明するとなると難しいんだよね。やってはじめてわかるというか。
なるほど。
だから、今回どこについて書きたいのかによるよね。
んーなるほど。今回は、せっかくお二人に時間作っていただいてお会いできたので、お二人のお話が聞きたいです。お二人にとってのけん玉とは? とか想いとか話していただきたい。
俺らに話せることなら、全然聞いて(笑)。
うんうん、それで記事になるなら、全然聞いて(笑)。
ありがとうございます! お二人はけん玉が広まれば良いと思って活動されてるんですか?
僕的にはけん玉はただのツールであって、けん玉が広まればいいとはあんまり思わないんですけど。なんか何でもいいから、一つの活動をする。目的を持って何かする集団が増えればいいなって。もっと偏見なくいろんなことにチャレンジする大人が増えればいいなって思います。
正直、同じ意見だなあと思ったのは、自分も第一声でけん玉が広まればいいとは思ってない。だから、けん玉じゃなくてもいいんじゃない? とは思う。けん玉に限らず、なんかできたらカッコよくない? カッコつけたいじゃん。
たしかに。
一見言ったらだせえじゃん、子どものおもちゃだしさあ、みたいなところはあるけど、これを真面目にやるってなんか、カッコよくない? できるからカッコいいんじゃなくって、やってるからカッコいい。「やったぜ! これできるようになったからカッコよくない?」「あーそれカッコいいっすね!」みたいなのが嫌味なく広がったほうがなんか健康かなって思ってる。
けん玉に教えてもらったこと in 厚真・被災地
胆振の震災が起こった2日後、2018年9月8日に厚真に行ったんだよね。そこには「厚真けん玉クラブ」があるんだけど、その創始者の斎藤烈さんに「何が必要?」って聞いたら「笑顔になれる大人」って言ってきて、なんだこいつカッコいいなって思った(笑)。
厚真に行ったときに彼と一緒にけん玉やってNHKとかに取り上げられたんだけど、そのときに子どもたちがわーって集まってくるんですよね。本当に震災のときに何してんのって雰囲気の中、真面目に大人が、3人でけん玉で世界一周って技をやって。そのときに子どもたちがわーってなったときに、ああ、多分こういうことなんだろうなあって。くだらないことかもしれないけれど、それを真面目にやるってすごいカッコいいことなんだなあ、と思って。それでみんなを笑顔にできるんだなあって感じて。それはなんか教えてもらった、けん玉に。カッコよくないこの話?
めっちゃカッコいいです!
いやなんか俺も自分で話して酔っちゃった(笑)。
あのとき何もできなかったもんね。
なんだったんだろうって思うくらい、本当に何もできなかった。ただけん玉持っていった。
烈さんはね、あのときけん玉をやっていて最初めっちゃ怒られたって言ってた。協力隊は、役場職員として被災地の避難所の担当割りとかがあるでしょ? でも、僕はそこに行きたくないと言って、けん玉をずっとやってた。やっぱ大人って高齢者とかのために場所を用意したがって、避難所には遊び場って全くなくなるじゃないですか。だから遊び場をずっと作ろうとしてたんだけど、今そんなことやってる場合じゃないって上司たちに怒られた。
難しいですよね。
でもやり続けていくことによって、周りの評価ってどんどん変わってきて。「あれがなかったら子どもたちの目って死んでたよね」とか「子どもたちもっともっと不安になってたよね」みたいな話がいま厚真町とか北海道内で出ている。 それがたまたまけん玉だったのかもしれないけど、子どもたちが飛びつきやすかったのがけん玉で。そのときは、けん玉が厚真町を救ったと俺は外から見て思ってる。
現にそうなんじゃない? 本当に。
そうだね、だから一見馬鹿に見えるけどそうじゃなくて。ちゃんと想い持ってやっていればいいのかなって。
そうそうそう。被災地に行ったときに公民館みたいなところに行ったんだけど、その地域の幼稚園生から中学の受験生がいて、すごい年齢幅があったんだよね。一緒にけん玉やってても最初やっぱ中学生とか来ないのよ。だせえじゃんとか、何あいつらみたいな感じだったんだけど(笑)。
「どうせ暇なんでしょ。やるべ!」って言ってやって。中学生は体の使い方うまいから1、2時間でぽんぽんぽんってできるようになっていくんだよね。そうなると、子どもたちだけで教え合って、自分はそこにいらなくなるんだよね。
うんうん。
そしたらいらないじゃん。自分がそこに。こういうのが必要なんだなあって思うと、それこそさっき克磨が言ってたようにツールとしてのけん玉だと思ってる。ツールとして人をつなげることには非常に長けているおもちゃなんだなあって思って。よっぽどゲームやってスマホの電気も通ってないから充電もできないあの空間でゲームするよりも健康的だったんじゃないかなあと思うし。笑顔にできたんじゃないかなあと思う。
最後にそこの中学生の女の子が、「けんちゃん(斎藤烈さん)とニノ(二宮さん)はさ、結局なんの仕事してんの? 私もその仕事に就きたい」って言われたんですよ。めっちゃ嬉しくって。
「ただ子どもと遊ぶ仕事だよ。社会教育主事ってのがあるから、そういうのを目指してみたら?」って話をした。けん玉がこうやってキャリア教育にまで影響してるじゃん? すごいよね。カッコよくない?
本当だよ。上士幌の(けん玉の)中学生三人は十勝を目指してないっていうか。学校の成績がよかったら帯広の高校に行くっていうのが今の上士幌では普通だけど、そうじゃなくて。札幌行きたいとかけん玉の故郷である広島に行きたいとか、好きなプレイヤーのいるとこに行きたいとかっていうことを考えながら生きてる感じがなんかいいなあって。
外の世界を知るツールにもなっているんですね。
そうですね。っていう始まりは結構深い感じの。
いやあ、めちゃめちゃ深いなあ。
まあ結果論なんだけどね、全部。今、目の前にあることを自分はやりたくて。上士幌は震災のダメージが電気くらいで。高齢者の部分も職員で賄えるってなったときに、当時協力隊だった俺はほかの困ってるとこへ行きたくて。厚真が人が足りないっていう報道を見て、誰も動かないのは違うと思って訪問した。
上士幌的にはなしだけどね。僕は正職員だったからそっちの対応しなきゃだったから。一緒に行こうって言ってたんだけど、二宮が先に行くわって言って、ちょっとよろしく頼むわって言って(笑)。その次の週に二人で行ってる。だから、本当厚真に行った最初に救世主は二宮だったなあ。
そうそうそう、でも最初何も考えてないからね。ただ単に実家帰って、やっぱ俺まだ休み取れるから行くかなあって。今から行くからって連絡ちょっと取ってっていう超衝動的な動きだったな。
あと、けん玉呼びかけたりもしたよね。インスタでね。
やったねえ! いろんな人たちにDM送って、今厚真こうなってるからみんなでけん玉の動画を厚真のハッシュタグつけて投稿してくれって。バーって送ったよね。
うん。あとは子どもたちは来てるんだけど、けん玉が足りないってなって。みんないらないけん玉を送ってくれってDMをしまくったよね。それは多分、中の人間はできなくって外だからこそできたんだろうなあ。
すごかったよね、いっときインフレ起こったもんね。けん玉の(笑)。多すぎてどうしようみたいな(笑)。山形工房とかね、けん玉作ってるとこから100本くらいかわかんないけど、すげー送られてきたんだよね。俺それ捌き切れないから持って帰ってくれって言われたもんね(笑)。
そう。何本か持って帰ってきたもんね(笑)。
いいの? ありがとうって言って(笑)。
今考えると、関係人口じゃなくて何かピンチになったときに外にそういう人がいると助けられるんだなっていうのは思ったかな。
そうかも。対応も早かったよね。
めちゃめちゃ温かいですね。
くだらないことかもしれないけれど、それを真面目にやるってすごくカッコよくて、みんなを笑顔にできる。そうけん玉から学んだとお二人は話してくださいました。後編では、一体どんなお話が飛び出てくるのでしょうか。お楽しみに!