担当者インタビュー「まちジョブハレタ」お互いを支え合う共助の仕組みづくり
町民の困りごとを町民が解決する――「まちジョブハレタ」は、地域に住む人たちがお互いを支え合う仕組みです。2021年10月からこの事業を担当する岩部栄美さんに、事業について、そしてご自身の思いについてお聞きしました。
まちジョブの作業についてまとめた記事もあるので、ぜひこちらもご覧ください。
「まちジョブハレタ」担当
岩部栄美さん
北海道清水町生まれ。2021年10月に帯広市から移住。
地域おこし協力隊「生涯活躍のまち推進員」として、(株)生涯活躍のまちかみしほろ(まちづくり会社)に勤務。「まちジョブハレタ」「無料職業紹介所」など、まちの仕事や求人にかかわる事業を担当。
人と人をつなぐ仕事に興味を持った
――まずは岩部さんについて聞かせてください。まちづくり会社で働くことになった経緯は?
岩部:帯広市に住んでいたのですが、夫が隣町の士幌町の会社に転職したことをきっかけに、私もその近辺で仕事を探していたんです。転職サイトを見ていたら上士幌町で地域おこし協力隊を募集しているのを見つけて、応募しました。
――それが現在の仕事だったわけですね。
岩部:そうです。求人には「生涯活躍のまち推進員」とあって、はじめは「何をする仕事なんだろう?」と思っていましたが(笑)。
――なるほど(笑)。
岩部:前職では労務管理の仕事をしていたのですが、会社で雇用した外国人実習生や障がい者の方々を各部署に配置する業務コーディネーターの役割も担っていました。そのときに「人と人をつなぐ仕事っておもしろいな」と感じるようになったんです。この仕事も求人票に「町民同士をつなぐマッチングの仕事」と書かれていたので、経験を活かすことができるのではないかと思いました。それで採用していただけたので、2021年10月に夫婦で上士幌町に移住しました。
――そういう経緯だったのですね。仕事は当初から「まちジョブハレタ」を担当されているのですか?
岩部:はい。「まちジョブハレタ」と「無料職業紹介所」を担当しています。
岩部栄美さん
「まちジョブハレタ」は「共助の仕組み」
――このインタビューでは主に「まちジョブハレタ」について伺いたいのですが、どんな事業か教えてください。
岩部:ひと言でいうと、町民の困りごとを町民が解決する「共助の仕組み」づくりです。例えば「昨年までは自分で草刈りができていたんだけど、今年は体が動かなくなってきたので誰かできる人にお願いしたい」といった声があったときに、草刈り作業ができる町民の方に依頼して、代行で作業をしてもらいます。ボランティアではなく、お仕事として依頼するので報酬も発生します。そのように、困りごとがある依頼者とそれを解決できる作業者をつなぐ仕組みになります。
――地域の人たちがお互いに助け合う仕組み、というわけですね。
岩部:そうです。仕組みとしては「まちジョブハレタ」というマッチングサイトがあって、そこに依頼したい仕事を掲載したり、手助けをしたい人は自分の特技やスキルを掲載しています。その際、仕事を依頼したい人は「依頼会員」、手助けをしたい人は「作業会員」として登録をしてもらいます。ただ、依頼会員も作業会員も高齢者の方が多いので、実際の受付などのやりとりは電話ですることも多いです。
――現在、どれくらいの会員数なのですか?
岩部:2024年1月時点で依頼会員が約120名。これは個人だけでなくて法人も含まれます。作業会員が約180名です。
――全部で300名。かなりいらっしゃいますね。
岩部:そうですね。私が着任した2021年10月では合わせて約200名でしたので、この2年間でも100名ほど会員が増えています。
――会員はどうやって増やしているのですか?
岩部:作業会員は町の広報や新聞折込みなどで募集しています。でも多いのは町民の方からのご紹介ですね。年代では70歳代以上でまだまだ体を動かしたい、誰かの役に立ちたい、という方が多いです。上士幌町は元気なシニアの方が多いと感じますね。新規のお仕事のご依頼も口コミによるものが多いです。例えば、作業会員さんが依頼を受けたお宅の草刈りをしていると、隣に住んでいる方から「どこに頼んだの?」と聞かれて、その方からご依頼の連絡をいただいたりします。
――どんな依頼が多いですか?
岩部:草刈りや庭木の剪定といった庭仕事ですね。特に夏は草刈りの依頼が増えるので、ほぼ毎日のようにどこかで作業をしていますよ(笑)。草刈りは遠方からの依頼も多いんです。今は本州に住んでいるけれど実家が上士幌町にあるので、実家の草刈りをしてほしいといった依頼が年々増えています。秋になると農家さんから農作物の収穫を手伝ってほしいという依頼が増えます。反面、冬は依頼が少なくなりますね。
雑草抜きや窓拭きの依頼を受ける作業会員
――年間ではどれくらいの数の稼働がありますか?
岩部:マッチング件数でいえば800件くらいですね。
――800件!? そんなにあるんですか?
岩部:はい。依頼数そのものはもう少し少ないのですが、例えば一つの依頼で作業会員さんが2回稼働すると2マッチングとカウントするので、積み重ねていくとそれくらいの数になります。
――それでもすごい件数ですね。それだけの困りごとを解決しているというのは素晴らしいと思います。
岩部:そうですね。会員の皆さんには本当に感謝しています。
「ありがとう」の言葉が何よりのやりがい
――この事業を担当されていて、やりがいに感じることは何でしょうか?
岩部:それは何といっても会員さんからの「ありがとう」という言葉ですね。依頼会員さんからはもちろん、作業会員さんからも「役に立ててよかった。ありがとう」という声を耳にするたびに、この事業を担当していてよかったなと思います。
――逆に苦労されたり、大変だなと感じることは?
岩部:ルールの徹底の難しさでしょうか。例えば庭木の剪定作業では、高所作業になると危険なので請けていないんです。私たちのルールでは作業に使う脚立のサイズを決めていて、それより高いサイズの脚立を使用する場合は、町の業者さんなどをご紹介するようにしています。以前、「これくらいならできるよ」と、作業会員さんが善意で作業してしまったことがあるんです。事前に説明はしていたのですが、できることはやってあげたくなっちゃったみたいで……。
――上士幌町は優しい方が多いと聞くので、町民性も感じますね(苦笑)。
岩部:そうですね(笑)。でも何かあってからでは遅いので、そういったルールなどは改めて徹底していかないといけないと感じています。
――改善に向けて行っていることはありますか?
岩部:まずは作業会員さんにしっかりルールをお伝えしたり、講習会や勉強会を定期的に行っています。草刈りなどは自己流でやってきた方も多いので、改めて手順を説明したりもします。
花壇整備や窓拭きの講習を開催
――安全面からも大切なことですね。
岩部:ほかには、花壇整備に関する講習を行いました。花壇整備は上士幌町からの依頼なのですが、今までボランティアで行ってくださっていた方たちが高齢になって難しくなってきたので、主婦の方やお花が好きな作業会員さんにお願いしています。講習では、十勝ヒルズのガーデナーの方に来ていただいて、花の知識や整備について教えていただきました。家の掃除などもニーズが出てきているので、今後はこうした講習会なども増やしていきたいですね。
――岩部さん自身が心がけていることはありますか?
岩部:一番はコミュニケーションですね。作業会員さんが入る現場には必ず顔を出すようにしています。現場に行くと「この作業をするのにこんな道具がほしい」といった声を聞くこともあります。それで次の作業までに用意したり、作業時間が長い現場には飲み物などを差し入れするときもあります。
――確かに、担当としても現場を知ることは大切ですよね。
岩部:はい。現場に行って会員さんたちと会話をする中で、いろいろと気づくことも多いです。それに、私は皆さんのお話を聞くのも好きなので、休憩中に依頼会員さんと作業会員さんが楽しそうに会話している様子などを見るとうれしくなるんです。
作業会員とコミュニケーションを取る岩部さん
――現場で印象に残っているエピソードなどはありますか?
岩部:そうですね……予定の時間に現場に行ったら、誰もいなくて作業が終わっていたことがありました。聞いたら作業会員さんが時間を勘違いされて、ずいぶん早い時間に来て作業をしていたそうなんです。連絡では電話を使うこともまだ多いことから、そうした行き違いも時々起きるので、改善の仕組みをつくってきたいと思っています。
本当の「共助の仕組み」を目指して
――改善という言葉が出たところで、今後の目標や展望などをお聞かせください。
岩部:作業会員さんが仕事をしやすい環境はもっと整えていきたいですね。年々会員さんも増えているので、講習や作業ごとのルールやマニュアルづくりなどをしっかりやっていきたいなと思っています。
――まだまだ改善の余地はありますか。
岩部:そうですね。まちづくり会社では、スマートフォンの使い方の相談窓口「スマホロ」という事業も行っています。この「スマホロ」と連携して、今までは主に電話で連絡を取り合ってきたシニア世代の作業会員さんとのグループLINEを作ることも考えています。スマートフォンを持っていない方には町から貸与されているタブレットを使っていただいて、少しずつデジタルツールにも慣れていただけるといいなと思っています。
――デジタルツールがうまく活用できれば、さらに便利になりますね。
岩部:はい。ほかには、町の地域包括支援センターなどとも少しずつ連携させていただいています。現場に行ったときに、依頼会員さんの体調や顔色が優れないなと感じたら、すぐに地域包括支援センターに連絡を入れたりしています。担当の方でも全ての町民の方たちの様子を日々把握できているわけではないので、とても助かると喜ばれています。
――見守りのような役割も果たしているんですね。
岩部:そうですね。行政ではカバーできないことを私たちが補っているところもあると感じています。あとは、若い人たちにも、これからもっと地域の困りごと解決のお手伝いをしていただきたいと考えています。会員登録は、高校生からできるんですよ。高校生の作業会員が増えれば、若い世代とシニア世代の交流にもつなげられるんじゃないかと思っています。多世代で支え合えれば「まちジョブハレタ」は、本当の意味での「共助の仕組み」になっていくと思います。
――多世代が支え合う町、素敵ですね。これからも頑張ってください。今日はありがとうございました。
岩部:ありがとうございました。頑張ります!
=======
「人と人をつなげていくのが楽しい」と話してくれた岩部さん。人と接することはもちろん、「まちジョブハレタ」の仕組みが少しずつ整っていくことも、岩部さんの大きなモチベーションになっているようです。
「地域の人たちがお互いを支え合い、助け合える町にしていきたい」。岩部さんの思いは、きっと町の人たちに届いていくことと思います。
TEXT:コジマノリユキ
2018年4月より上士幌町在住のライター。1976年生まれ、新潟県出身。普段は社内報の制作ディレクターとしてリモートワークをしています。写真も撮ります。マイブームはけん玉。モットーは「シンプルに生きる」。