【上士幌町】牛の糞尿がエネルギーに生まれ変わる!~畜産バイオマスを活用した資源循環・エネルギー地産地消のまちづくり~
酪農が盛んな上士幌町。しかし、今後も増頭する牛の糞尿をどう適切に処理するかが課題としてありました。今回は、バイオガスプラントによる家畜糞尿適性処理の取り組みからスタートした畜産バイオマスを活用したまちづくりについて、役場の企画財政課老月(おいつき)さんにお話を伺いました。
トップ写真:酪農法人ドリームヒル、バイオガスプラント施設外観(提供:ドリームヒル)
Writer
清水 咲紀
MYMICHI2期生。北海道出身。青年海外協力隊として中米ベリーズで活動していたが避難帰国となり、実家の農業の手伝いをしていたところ声をかけられプログラムに参加。人生初めての十勝、町の魅力を発見するとともに、自分自身と向き合っているところです。
上士幌町のご担当
老月 隼士さん
上士幌町企画財政課
そもそも「バイオマス」と「バイオガス」とは?
「バイオマス」という言葉を最近よく耳にするけど、一体何なのか私自身よくわかりませんでした。なんとなく環境に良さそうだなぁというイメージ。
「バイオマス」とは、生物由来の有機性資源(化石資源を除く)のことをいい、木材や家畜糞尿などが代表的です。そのほかに可燃ごみ、生ごみ、廃油、下水汚泥などもエネルギー資源になります。バイオマスエネルギーを利用することによって、限りある化石燃料の消費を抑え、二酸化炭素の排出量を減らすことができるなどのメリットもあるそうです。
「バイオマス発電」とは、この生物由来の資源を燃料として発電する方式のことをいいます。
上士幌町では「バイオガス発電」を行っています。名前が似ていて少しややこしいですが、バイオガス発電は、バイオマス資源である家畜糞尿を発酵させてバイオガスを生成します。そして、ガスを作る過程で消化液が残ることがポイントにあります。酪農が盛んな上士幌町では、原料となる家畜糞尿を安定して確保できるため、太陽光や風力のように発電量が天候の影響を受けることなく、常に安定した電力を供給することが可能になります。
今回はバイオガス発電についてのお話です。
畜産農家さんをはじめとした町の課題
上士幌町の人口は約5,000人。それに対し牛の数はというと…
なんと約40,000頭以上も!!
人口の約8倍もの牛が飼育されています。今も牛の数は増え続けているとのこと。
一般的に、乳牛は1日当たり40~60kgの飼料を食べ、60~120ℓの水を飲みます。
1 頭あたりが排出する糞尿は1日あたり約45~50kgの糞と15kgの尿を排泄します。〔参考:酪農ジャーナル電子版PLUS〕
増頭する牛の糞尿処理について、畜産農家さんをはじめとした町の課題として挙げられていました。「これらをしっかりと処理しなければ、地域環境などに影響を及ぼしてしまう」と老月さんはいいます。
その糞尿を適性に処理するため計画的なバイオガスプラントの整備検討が平成26年より始まり、平成29年4月には町内のバイオガスプラント事業者による計4基のプラント工事が始まりました。
そして、エネルギーの有効活用を検討するため、平成29年に北海道の「エネルギー地産地消事業化モデル支援事業」に上士幌町の「畜産バイオマスを核とした資源循環・エネルギー地産地消のまちづくり事業」が採択されました。北海道より5年間補助を受け、畜産バイオマスを活用したモデルの構築に向けて上士幌町を含む6団体が連携し、“畜産バイオマス”で発電したエネルギーを活用し、それを循環させたまちづくりの取り組みが始まりました。
無駄がない! 牛の糞尿を使ったバイオガス発電
バイオガス発電はバイオガスプラントと呼ばれる施設で家畜糞尿を発酵させ、発生したバイオガスを使い、発電機によって電気を生み出しています。また、発電後に出た残りも使って、無駄がないように全て処理するという方法を導入しているそうです。
無駄がないなんて、まさに理想的な発電!
町内では現在建設中のプラントを含めて7基を整備しており、プラントによって少し資源の受け入れ方法などは違ってきますが、根本的な処理方法は一緒だそう。
老月さん
「牛の糞尿を発酵槽で発酵させます。基本的には約40日間40度で加温した状態で発酵させます。そうするとメタンガスがどんどん出てきて、貯まったガスを使いエネルギー(電気)に変え、全て北海道電力に売電し収益を得ています。発酵後の残りを“消化液”といって、それも実はいろいろな方向で循環させて使っているんです」
牛の糞尿を発酵したあとの残り”消化液”の処理方法は、次のような流れになっています。
老月さん
「“消化液”という残りの部分をさらに分離すると、固液分離といって固体と液体に分けられます。固体は牛のベッド(寝ワラ)になり、その成分中には牛が食べて消化できなかった牧草などが多く含まれ、ここでも循環が起こっています。液体は、液肥という肥料として牛のエサを作るデントコーン畑などの肥料として利用されます。すごくたくさん出るため、貯留槽(ちょりゅうそう)という大きなプールでいったん貯め、必要に応じて使われます」
老月さん
「要は家畜糞尿が適性に処理されて、電気になって、売ってお金になる。残りの部分も固体が牛の寝ワラになって、液体は肥料に使って、まさに無駄がない素晴らしいシステムという感じですね。実際この設備は何億円もします。ここまで無駄がなくて循環し、売電で収益も出るという点では、理にかなったシステムで今処理をしているというかたちなんです」
畜産農家の牛の糞尿から、また牛のためのベッドや液肥へと生まれ変わり、農家さんへ戻るなんて、なんだかとても素敵な循環の仕組み。さらには、牛の糞尿を適正に処理することによって周辺地域の臭いの軽減にもつながり、観光面でも効果的な取り組みとして期待されているそうです。
町でつくられたエネルギーのゆくえ
牛の糞尿からバイオガス発電でつくられた電気は全て売ったあと、一体どのように町の電力として使っているのか。
上士幌町内にある観光地域商社(karch)が1回売られた電気をもう一度買い戻し、電気の小売事業者(かみしほろ電力)として地域に供給しているといいます。
老月さん
「電気の勉強をするまでは、プラントから生まれた電気が電線を通って流れてくるのかと思っていましたが、そう単純ではありませんでした。市場の電気は一度全て一つになり、上士幌町のバイオガスプラント施設できた電気だよと特定する制度があるのでそれを活用し、観光地域商社(karch)が買い戻し、契約している畜産農家をはじめ、公共施設、農協施設、一般家庭等に供給しています。このような制度を活用して電気の地産地消の流れをつくっています」
本当にうまく町全体でエネルギーが循環しているんですね。
酪農法人ドリームヒルでは、個別型のバイオガスプラントを設置して発電、売電していますが、余剰バイオガスをプラントから離れたビニールハウスへ送り込み、ビニールハウスの熱源にして、トチオトメなどのイチゴやシャインマスカットなどのブドウ、“木になるアイスクリーム”と呼ばれる南米果樹のチェリモヤを栽培し、牧場直営のドリームドルチェでアイスクリームやケーキに利用しています。クリスマスには、このハウスでつくられたイチゴのケーキが店頭に並ぶとのこと。
これにはみんなびっくり! 本当に余すことなくエネルギーを使い、最終的には果物の栽培までできてしまうとは…。
そして、ドリームヒルではさらにもう1基、現在バイオガスプラントを建設中とのこと。このプラントで発電した電気は、全て牧場内で利用するそうです。エネルギーの地産地消に努め、循環型農業を目指し頑張られています。
これからの地産地消のまちづくりに向けて
老月さんは、畜産バイオマスを使った資源循環・エネルギー地産地消のまちづくり構想に向けてまだまだ課題があるといいます。
畜産業務を効率化、見える化するためのより良いシステムの構築や、もっと多くの町の人に上士幌でつくられた電気のことを知ってもらい契約を増やしていくこと。
「余剰バイオガスを活用し、生産された作物を将来、町民の皆さんに食べてもらうなど、地域内の流通についても検討しなければならない」と老月さんはおっしゃっていました。
町の人がより良く暮らしていくために。そして、上士幌の豊かな自然を守るために。地球のために。
町の人々や自然への思いやりから生まれた取り組みの裏には、多くの人の努力があったからこそ、今のかたちになっているのだと感じました。
そして、酪農や畜産業から生まれる再生可能エネルギー。たくさんの恵みを与えてくれている牛たちに改めて感謝。
なかなか聞けない貴重なお話を分かりやすく丁寧にしてくださった老月さん。
本当に知識が豊富で、これまでバイオガス発電やエネルギーのことなどについてたくさん勉強してこられ、ご苦労されてきたことが伝わってきました。
本当にありがとうございました!!
ほかにもSDGsに関する記事があるので併せてお読みください。