3年ぶりの開催!第39回上士幌ウインターバルーンミーティング
一面に広がる雪景色。連日の真冬日。
そんな上士幌町で2月11日と12日に「第39回上士幌ウインターバルーンミーティング2023」が開催され、取材をした2月11日も最低気温は氷点下11.4℃、最高気温も氷点下2.8℃ととても寒い日でした。
39回目となる今大会は、コロナ禍による中止を乗り越え3年ぶりに開催されたこともあり、会場のひとつである航空公園は、早朝から競技参加者たちの熱気であふれていました。
今回私は、全国の高校でも2つしかない北海道上士幌高等学校の熱気球部を取材することになりました。
第39回上士幌ウインターバルーンミーティング2023のイベント会場を取材した記事もあるのであわせてご覧ください。
>>第39回上士幌ウインターバルーンミーティング2023-イベント会場レポート-
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WRITER
関口 嘉子(せきぐち よしこ)
【ライター入門講座受講生】大阪生まれ大阪育ち。2009年に上士幌の農家と結婚し、この町に来ました。希少な豆を栽培し、「オリベの豆や」という屋号で商品を販売しています。
上士幌高校熱気球部
上士幌町は全国で初めて熱気球の大会が開催された町。
熱気球という非日常な体験が高校の部活動で味わえるとは、上士幌はなんてスケールが大きい町なのでしょう!
過去2年間の大会が中止になったため、上士幌ウインターバルーンミーティングは、3年生の部員にとっては最初で最後の冬の大会です。
現在熱気球部員は1年生4名、2年生4名、3年生4名の計12名。2月11日は3年生3名を含む7名が競技に参加しました。
さあ、フライトだ!
この日の競技は、各チームで離陸場所を決めてのスタートになりました。
熱気球部は上士幌高校の校庭からフライトをすることを決め、集合場所の町役場から高校まで車で移動。
現地に到着すると、そこからはてきぱきと準備が始まります。
道具を車から降ろし、バスケットにバーナーを取り付け、球皮を広げる。
雪が積もった真っ白な校庭に、大きくて色鮮やかな球皮が引き立ちます。
除雪していないエリアまで球皮を広げるため、膝の高さまで雪に埋もれる部員もいます。
「わあ!靴に雪が入ったー!」と、もうすでに笑顔で楽しそうです。
熱気球を飛ばすことだけではなく、準備作業も活動のうちです。自然発生的に役割が生まれ、顧問の先生と部員全員で効率よく進めていきます。
熱気球は決して一人では飛ばせないからこそチームワークが大切、ということがよくわかります。
色鮮やかな球皮
パイロット免許を持つ顧問の先生が念入りにバーナーチェックをした後、広げた球皮に大きな扇風機で空気を送ると、球皮は少しずつ大きくなり、柔らかく波打ちます。
その様子はまるで命を吹き込まれた巨大な生き物のようです。
バスケットに取り付けられたバーナーで温かい空気を送り込むと、球皮は一段と大きくなり、熱気球そのものが飛ぶ意思を持ち始めたかのようです。
それを制するように四角いバスケットを4人で支え、その間に搭乗メンバーが熱気球に乗り込みます。高校に到着してから、ここまでおよそ30分。
最後にゴーッゴーッとバーナーを燃やすと、熱気球は音もたてずふわりと地上を離れます。
空気を送り込まれ大きくなっていく気球
コロナ禍での部活動を経て
無事に離陸した気球を顧問の先生と部員たちが地上から見守ります。
3年間の部活動の話を聞かせてくれたのは、高校3年生の部員である男子生徒です。彼にとってウインターバルーンミーティングは、高校生活最初で最後の大会。
インタビュー冒頭、「緊張しています!」と素直な気持ちを聞かせてくれました。上士幌町出身で、お父さんも熱気球のパイロットだった影響で、子どもの頃から熱気球は身近な存在だったそうです。
「子どもの頃は熱気球に乗るのが怖かったです。でも今はすごく楽しい」最初にそう聞いたので、「入学してすぐ熱気球部に入部したわけではなかったんです」という言葉はとても意外でした。
入学直後は吹奏楽部に所属し、その後、熱気球部の顧問の先生に入部を勧められたということです。
熱気球部員は部活の掛け持ちをしていることが多く、彼も2年生の途中までは吹奏楽部との掛け持ちをしていました。
熱気球部に入部したものの、入学直後から始まったコロナ禍で毎年8月に開催される「北海道バルーンフェスティバル」と2月の「ウインターバルーンミーティング」は2年連続で中止となり、3年生になってようやく上士幌町の夏と冬の大会に出場することができました。
「夏の景色と冬の景色。どちらも綺麗なので、大会でフライトできて良かったです」
気球から見た夏の景色と冬の景色(写真:土門史幸)
長く続いたコロナ禍でも、熱気球部の活動はありました。
放課後のトレーニング。風のない早朝を狙ってのフライト。そして町内外の小学校を訪れて児童を対象に行う係留体験。
進級するにつれ、教えてもらう側から教える側になり、安全性に関することや熱気球部の伝統をつないでいく責任も増えていきました。
小学校での係留体験では、子どもたちの喜ぶ顔と「ありがとう」の言葉が励みになったそうです。
自分たちだけで完結するのではなく「人に喜んでもらえる」という実感は、他の部員たちにとっても大きなモチベーションになっているとのこと。
彼は続けて「熱気球に乗った子どもたちも、この楽しさを忘れないでほしい。そして気球と言えば上士幌町、と思い出してほしい」と言います。
「熱気球を通じて上士幌町のPRもしたいんです。熱気球から見るこのまちの、果てしなく続く畑の風景はとても雄大で素晴らしい。一人でも多くの人に熱気球を体験してほしいと思っています」
インタビューに応えてくれた男子生徒(写真:上士幌高校熱気球部)
彼は卒業後、本州の大学に進学。受験の面接では全国でも珍しい熱気球部の活動も評価されたそうです。
大学生活では熱気球に触れる回数は今よりも減ることが予想されますが、熱気球部で経験した熱気球の楽しさ、空からの雄大な景色の記憶、そしてチームワークの大切さを知ったことはこれからの彼の人生を鮮やかに彩るはずです。
まぶしい部員たちの姿
およそ1時間の飛行を終え、熱気球が雪原に着陸しました。
車で熱気球を追っていたメンバーもその雪原に集まり、全員で熱気球を片付けます。なるべく早く、丁寧に。
ここでも日頃のチームワークが生きてきます。
大きな球皮を折りたたむ部員、ガスボンベやバーナーを片付ける部員。
大きかった熱気球が、30分ほどで軽トラックの荷台に乗せられるほどコンパクトにまとまります。
小さく畳んだ球皮を布製のバッグに収納するとき、部員全員がバッグを囲むように立ち「せーのっ!」の掛け声でバッグを持ち上げます。すると球皮がバッグに収まりました。
映画のワンシーンのようなその光景が、とても眩しく映りました。
片付けも終わり、最後は顧問の先生の総括です。
「競技に関しては記録なしだったけど、安全に楽しく飛べたことは良かったね」と部員たちを労いました。
片付けもチームで
これからも続く「熱気球の町」へ
熱気球は自然を相手にする競技です。飛びたいとき、行きたい場所に確実に行けるわけではありません。
空の様子、風の状況を見極めて、そしてチームワークがあって初めて熱気球を飛ばすことができます。
取材日のように天気が思わしくない日でも、穏やかな雰囲気で作業を進める部員たちの姿を見て、彼らがこれまで熱気球の魅力を語り合い、その楽しさを共有していたことが想像できました。
熱気球を愛する仲間たちと過ごした時間は、部員ひとりひとりの心に大切な思い出として豊かに積み重なっているのではないでしょうか。
「熱気球部があるから上士幌高校に入学しました!」と語る1年生部員。熱気球のパイロット免許を取得すると決めた2年生部員。上士幌高校熱気球部は、とても元気で希望に溢れています。
4月にも、新入生が熱気球部の扉をノックすることでしょう。
3年生たちはこの春、高校を卒業します。そしてそれぞれの進路へ。
彼らがこの町に帰って来た時も上士幌町が熱気球の町であり続けられるよう、私ができることは何かな…帰りの車でそんなことを考えました。
畑に着陸した気球に集まる部員たち