担当者インタビュー「ハレたね企画」好きや得意を活かしたコミュニティづくり
2020年にスタートした「ハレたね企画」は、ハレタかみしほろを活用した町民のチャレンジイベントを応援する企画です。「自分だけの趣味や特技が周りの人の喜びにつながることを体験してほしい」と話すのは、この事業を担当している八下田洋子さん。その八下田さんに事業への思いを聞きました。
「ハレたね企画」担当
八下田 洋子さん
東京都出身。2015年に家族で東京から上士幌町へ移住。2020年より(株)生涯活躍のまちかみしほろに勤務。入社当初より「ハレたね企画」を担当し、これまでに100以上のチャレンジイベントを企画・開催している。
まちの人たちの「可能性の種」を育てたい
――「ハレたね企画」はどんな事業か教えてください。
八下田:まちの人たちが、ハレタかみしほろ(以下、ハレタ)を使って自分の趣味や特技を活かしたチャレンジイベントを開催するお手伝いをしています。例えば、料理が得意な人なら手づくりのお菓子を販売したり、ランチを提供したり。ヨガやアロマなどの教室を開く方もいますし、写真展を開催した方もいます。
――なぜ「ハレたね企画」なのですか?
八下田:皆さんそれぞれが持っている「可能性の種」を育てたいんです。この事業には、自分だけの楽しみである「好きなこと」や「得意なこと」をほかの人たちに向けて表現することで、自己実現の第一歩を踏み出してほしいという思いがあります。それをハレタでやっていく事業なので、かけ合わせて「ハレたね企画」としました。
手づくりおやつカフェ
――事業を始めたきっかけは?
八下田:上士幌町には、多彩な趣味や特技を持っている方がたくさんいらっしゃって、しかもそのレベルがとても高いんです。だからこそ、それを自分や家族・友人といった限られた範囲の中だけで楽しむのはちょっと勿体無いなと感じて。ハレタが自分の趣味や特技をまちの人たちにも表現できる場になればコミュニティづくりにもつながると思ったんです。
――確かに、場所と人を組み合わせるとコミュニティが生まれますね。
八下田:これまでサービスを受ける側だった人たちが、この事業では提供する側に回ります。そこで自分だけの楽しみが他者の喜びや楽しみにつながるとわかったときに、その人は社会とつながれる。それが広がると、いろいろな世代やコミュニティともつながれるし、自分の新しい価値や役割に気づくこともあるんじゃないかと。それがこの企画の醍醐味だと思っています。
「好きの根っこ」を見極める
――実際に何かをやってみたい、チャレンジしたいという人は多いのですか?
八下田:今では紹介してもらったり、イベントにお客さんとして参加した人が自分もやってみたいと声を上げてもらうことも増えましたが、最初はそんな人がいるかどうかもわからないのでとにかく手探りでした。この事業で初めて企画した「手づくりおやつカフェ」は、実は私の友人たちにお菓子の出品をお願いしました。その後も、自分の友人や知人からこんなことが得意な人がいるよと聞いてはアポイントを取って突撃訪問です(笑)。それでとにかくこちらの思いを伝えて、出てもらっていたというのが実情でした。
町の作り手さんたちのお菓子
――最初はそんなスタートだったのですね。
八下田:まずは実績をつくらないと広がらないと思っていましたから必死でした。たくさん失敗もしましたよ(笑)。
――例えばどんな?
八下田:一番は結果を急ぎすぎたことですね。とにかくチャレンジしてほしくて、グイッと手を引きすぎて相手の方をすごく悩ませてしまったり、私にはやっぱり無理ですと言わせてしまったり……。私の仕事は伴走することなのに、逆に私が主導してしまっていたんです。
――早く実績をつくらなければという焦りもあった。
八下田:でもそうなると、その人のチャレンジではありませんよね。それに気がつかなかった。それからは「主役はあくまでチャレンジする人。私は黒子」という気持ちで、ご本人の意向やペースを確かめてチャレンジを支えることを意識するようになりました。
――ご本人の気持ちに寄り添うようになったと。
八下田:はい。でも一方で、早く舞台に上げた方が良いと思う方もいます。例えばランチイベントを開催したある方は、ずっとできないと言っていたのですが、同時に料理が大好きな理由もたくさん話してくれるんです。聞いたら、子どものころから家で料理をするとおばあちゃんが喜んでくれたという。それならおばあちゃんをイベントに呼んだら喜ばれるんじゃない?と言ったらすごく目が輝いて。「好きの根っこ」に触れると、本人も思いの強さを再自覚するんですよね。その瞬間にできない理由が消えて、ベクトルができるに振れる。その方も「やって良かった」「またやりたい」と言って、2回目3回目と開催しました。
――「好きの根っこ」。大切なキーワードですね。
八下田:そうですね。その方がなぜそれを好きなのか。そこはしっかりと見極めるようにしています。あとはタイミングも大事ですね。
「好きの根っこ」から生まれたチャイニーズ御膳
――タイミングもありますか。
八下田:あります。やってみたい気持ちはあるけれど、子どもがまだ小さいからもう少し待ちたいとか、今年は受験があるからとか。そういうときは待ちますね。初年度におやつカフェにチャレンジしてくれたあるお母さんが、今年2回目を開催してくれました。初回の評判が良くて「またやってほしい」という声もずっと届いていたのですが、小さなお子さんがいらっしゃるので、タイミングを待っていたんですよね。
――なるほど
八下田:久しぶりに開催したらお子さんがすごく喜んでくれて。お母さんのケーキは自分の家で食べられるんだけど、おやつカフェでその子はわざわざお金を出してケーキを買うんです。お母さんが誇らしいんですよね。
――それはうれしいですね。
八下田:お母さんもやって良かったと言ってくれて。たとえ時間がかかったとしても、ちょっとしたタイミングでピースがはまる瞬間があることもわかりました。
――待つことも大事、ということですね。
八下田:はい、そのとおりです。
町内牧場のベトナム人スタッフの皆さんがベトナム料理を披露
まちの人たちからの声がモチベーションに
――ところで、八下田さんご自身が事業をやっていて良かったと思うのはどんなときですか?
八下田:チャレンジした方が「やって良かった」「またやりたい」といってくれたときですね。イベントに来場した方からの「次はいつ?また楽しみにしているよ」といった声もすごくうれしいです。
――やはりそういう声がモチベーションになる。
八下田:そうですね。あと、私は人が好きなんです。東京に住んでいたころからいろいろと仕事をしてきましたが、派遣会社でコーディネーターをしたり、職業紹介の相談員も経験するなど、人と関わる仕事ばかりでした。私は誰かに誇れる資格を持っているわけではないし、大きなキャリアを積んだ人間でもないけれど、多様な仕事を経験したことがこの仕事をする上での大きな強みにもなっていると思います。
――キャリアを縦に積み上げていくのではなく、八下田さんは横に広げてきた。だからこそ誰とでもフラットに接することができるのですね。
八下田:はい、振り返るとそう思います。人に寄り添うのが私のスタイルで一番得意なことなので、相手と同じ目線で話ができて安心感を持ってもらえるのもそこかもしれません。
――お話を伺っていて、すごくわかる気がします。
八下田:でも今だから言えますが、気持ちが落ち込むことが続いて、会社をやめようか悩んだ時期もありました。
かあちゃんばあちゃん野菜市とハンドメイド雑貨の作り手さんのコラボ出店
――え?そうなのですか?
八下田:そこで踏み止まれた理由も、まちの人たちからの声なんです。かつて自分がチャレンジをしてみませんかと声をかけた人たちから「コロナ禍が落ち着いたらこんなことをやってみたい」「前は断ったけど、自分の状況が整ったのでチャレンジしてみたい」といった声をいくつかいただいて。私が蒔いてきた種が、少しずつ芽を出し始めているんだなと感じたんです。
――そうだったのですね。
八下田:「醸成」という言葉がありますよね。「醸して成る」と書くのだけど、この事業はまさにそれだなと思って。それでもう一度頑張ろう!と気持ちが前を向きました。
コミュニティづくりから、まちづくりへ
――事業も3年目になり、チャレンジしたい人も増えてきています。これからこの事業をどうしていきたいですか?
八下田:今年はチャレンジしたい人同士のコラボイベントが生まれました。この流れが加速していくといいなと思いますし、ここから新しいコミュニティが生まれて、新しい仕掛けが始まったらうれしいですね。まだまだいろいろな特技を持った人も多くいると思いますし、たくさんの人にチャレンジの一歩を踏み出してほしい。コミュニティが広がり続けていくことがハッピーなゴールだと考えていますから、まちのほかのコミュニティともつながっていきたいですね。
――多様な人たちがつながっていけば、まちももっと盛り上がりますよね。
八下田:はい。事業の本来の目的はコミュニティづくりなんです。そしてコミュニティづくりはまちづくりにつながると、この仕事を通じて気がつきました。それは私たちの会社が目指す「生涯活躍のまちづくり」でもある。私も息子がいますが、彼を含めてこのまちの子どもたちに「上士幌って結構イケてるじゃん」と思ってもらえるような、そんなまちづくりにつながるといいなと思います。この事業にはその可能性を感じています。
――この先どんなチャレンジが生まれるか、とても楽しみです。
八下田:そのためにも、ハレタがコミュニティづくりのきっかけの場になればいいと思いますし、いつでもチャレンジできる場所として開き続けていることが大事だと考えています。本当に結果が出るまではまだまだ時間はかかるでしょうが、急がずに続けていこうと思います。待つことも大事ですから(笑)。
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「チャレンジした人の、やって良かったという声が何よりうれしい」という八下田さん。その八下田さんを支える根っこは「人が好き」という思いに違いありません。
まちの人たちの「可能性のたね」が育つとともに、「ハレたね企画」も大きく成長していきます。これからどんな色とりどりの花が咲いてくるのか、それを一番楽しみにしているのは、きっと八下田さんなのだと思います。
TEXT:コジマノリユキ
2018年4月より上士幌町在住のライター。1976年生まれ、新潟県出身。普段は社内報の制作ディレクターとしてリモートワークをしています。写真も撮ります。マイブームはけん玉。モットーは「シンプルに生きる」。