時間を大事にする今の時代に。酪農ヘルパーという働き方
「牛屋さんは生き物を扱うから1日たりとも休めない」。そう言われる酪農の世界。しかしながら、自分の時間・家族の時間を大事にするこの時代だからこそ活きる「酪農ヘルパー」という働き方がありました。今回は、小学生2人の父親であり、現在、上士幌町の酪農ヘルパーとして働く高橋恭平さん(33歳)がお仕事の合間にインタビューに応じてくれました。
WRITER
苅谷 美紅
MY MICHI2期生。東京でのテレビの仕事に疲れた元AD。8カ月住んだブラジルの赤褐色の夕日に気付かされた、故郷 北海道の美しさ。当たり前な風景が特別であると気づけるよう、北海道色豊かな上士幌町の魅力をお伝えします。
-現在時刻 PM12:00-
今、仕事の休憩時間なんですよね!? お時間大丈夫ですか?
そうです! 14時半から仕事なんで、14時くらいまでは大丈夫です!
-タイムリミットはPM14:00-
酪農ヘルパーってどんな職業?
早速ですが、酪農ヘルパーってどんなお仕事なんですか?
酪農家さんは1年中1日も休みがない仕事なので、農家さんの休みの代わりに俺たちヘルパーが派遣で行って休んでもらったり、農家さんの時間を作る職業です。あとは、冠婚葬祭とか急な葬儀だとか、「怪我して仕事出れないよ」というときにもヘルパーが行きます。
酪農ヘルパーさんが代わりに現場に入るから、酪農家さんが仕事をお休みできるという仕組みなんですね。具体的には何をするんですか?
まず最低限のことは餌やりと搾乳ですね。農家さんの代わりなので、牛の寝床掃除もやりますし。
それって朝何時くらいから始まるんですか?
平均は、4時半か5時に仕事が始まるんですよ。5時から始まるとしたら、1時間前、4時くらいに起床して、4時半に事務所に行って、着替えて、出勤して、5時から仕事を始めるみたいな。
4時起き……グラフを見ると、午前の業務の後、間が空いて、また午後仕事をしに行くんですか?
そうですね。本当にこの通りで、もちろん牧場によって終わり時間は違うんですけど。5時から始まって、7時とか、8時に終わるところもあるし、夕方も、15時から始まるとこもあれば、16時から始まる、14時半から始まる農家さんもあるんですよね。だいたい平均してグラフの時間かな。間が5、6時間空いている。
へー。その間の時間って何するんですか?
この昼間の時間・空いた時間は、とりあえず、何でも。プライベートなこととか、買い物行ったりとか、自分の趣味だったりとか。その後の仕事に支障のないようなことですかね。
高橋さんは何をしていますか?
そうですね~、自分の好きなこと、冬だったらスノーボードするんで、午前の仕事終わってからぬかびらのスキー場に行って、1~2時間滑っているときもあります。
えっ、でもそのあとまた仕事行くんですよね!?
そうです。自分の調整次第ですね、スノボーして帰って、ちょっと昼寝して行くとか(笑)。
パワフルですね~!
午前と午後で仕事の時間が分かれているため、日中に一度休憩時間を挟む、酪農ヘルパーのお仕事。朝は早いですが、その分、昼間、時間を有効に使えることは魅力の一つです。
酪農ヘルパーはどれくらい休みがあるの?
普通のお休みはどれくらいあるものなんですか?
上士幌の酪農ヘルパーって農協職員なんですよね。なので、給料も安定しているし、働く時間も8時間と決まっている。休みもしっかりしています。冬休みとか、夏休みとか、あとは、うちの次男坊がバスケットボールをやっているので、大きい大会に合わせて休みを取ったり。一応好きなところに希望を出して休みをとれるようになっていますね。年末年始は農協自体が休むので、ヘルパーもそれに合わせて全員休みですし。
一般企業と同じ感じなんですね。私が思っていた酪農のイメージとは違う……。
通常、月に7回か8回休みなんですけど、ここでまとまった休みがほしいからとかで休みを調整することもできます。
へーいいですね~!
年間休日約100日と設定されている酪農ヘルパーのお仕事。健康保険、厚生年金、雇用保険、労災、退職金制度など、福利厚生もしっかりしているそうです。
酪農ヘルパーになったきっかけは?
そもそも、高橋さんはどうして酪農ヘルパーになったんですか?
高校の友だちの家が酪農やってて、たまたま遊びに行っていたら手伝うことになって。楽しくなって、そのままずーっと高校2年生、3年生と、学校に通いながら住み込みで働いていたんですよ。それで、その友だちの家にも酪農ヘルパーが来ていて、その人に誘われて、ヘルパーやってみようかなって感じです。
高校の授業でも酪農について勉強したりしていたんですか?
まあ、そうですね。ただ、士幌高校って農業高校なんですけど、畑作科、酪農科って分かれるんですよ。畑のじゃがいもとか、野菜を作る専攻と、全く牛しかいじらない専攻。俺は畑作だったんです。
え!? 牛じゃなくてですか!?
全然牛じゃなくて。すいかとかじゃがいもとかかぼちゃとかいろんなもの作りました。でも、友だちの家に行くようになって、搾乳とか牛の仕事をして。まあ、どっちも面白かったんですよね。だけどその中で、酪農ヘルパーっていう職業を知ったから、ヘルパーやってみようかなって。
じゃあ、たまたま仲良くなった人が酪農家の息子じゃなかったら、今、野菜作ってたかもしれないですね!
高校卒業後、隣の士幌町で酪農ヘルパーになった高橋さん。士幌で5年、その後、今の上士幌で10年、酪農ヘルパーとして働いています。15年酪農ヘルパーとして働く中での、良かったことや、大変だったことについて聞いてみました。
酪農ヘルパーをやっていて良かったこと・嬉しかったことは?
酪農ヘルパーになって良かったこととか、嬉しかったことはありますか?
そうですね、良かったことはいっぱいあるんですけど、上士幌町の酪農ヘルパーは農協職員なので、休みもしっかりしているし、給料もちゃんと安定している。このコロナ禍でも仕事は絶えずにやっていけているんで、そういう点で良いなと思いますね。
安定志向の人には上士幌の酪農ヘルパーは良さそうですね! 嬉しかったことは?
農家さんの信頼とか信用ですかね。「高橋くんが来るならもう大丈夫だね」とかいろいろ言ってくれるのは、やっぱり嬉しいし、仕事も楽しくなりますね。
酪農ヘルパーをやっていて大変だったことは?
逆に、大変だったことはありますか?
特に大変だったなというのはないですけど、牛の急なトラブルだとか、牛が脱走した、急に分娩した、病気になって獣医さんを呼ぶとか。生き物なのでそういうのは大変かもしれないですけど、それをどう処理できるかは、経験が積み重なってくる。
なるほど。
農家さん1軒1軒覚えることが一つひとつ違うんで、まあ、毎日大変っちゃ大変なんですけどね。
上士幌町では酪農家戸数56戸、そのうちヘルパー利用戸数は47戸(平成29年調べ)。酪農ヘルパーは、都度必要とされる農家さんに派遣されるため、行く農家さん農家さんでのやり方に対応しなければなりません。
高橋さんの中ではきっと、大変なことが当たり前になっていますよね! 慣れというか、大変だと思わなくなってくるというか。これは、本当にきつかった! みたいなことはこれまでなかったんですか?
いや~どうかな~。牛に蹴られて、骨折したくらいですかね。
自分の不注意で牛がびっくりしてしまって、蹴られたんですよ。まあ2~3m飛ばされて。その時は打撲かなと思ってたんですけど、2~3日後、仕事中くしゃみしたらバキッてすごい音がして、その瞬間うずくまっちゃいました。それはもう、あの痛みは辛かったですね。くしゃみでトドメを刺された感じ。
うわ~、そのときはどれくらい仕事をお休みしたんですか?
それが、どうせ肋骨だからと思って休まなかったんですよね。1カ月半くらいしてやっと痛みがなくなったなっていうのが。結構ズボラというか、どうしようもないんだなと思い込んじゃうから、病院も行かなかったし。その頃はまだ25、26歳くらいだったんで、放っておけば治るかなーみたいな(笑)。
(苦笑)
少し笑える一面を見せてくれた高橋さんですが、これまで10年 “上士幌” で働いてきた理由と、これからについて話してくれました。
上士幌で働く理由とこれからについて
上士幌という町で酪農ヘルパーをやられていることに何か理由ってあるんですか?
上士幌は農協職員で休みも給与体系も安定しているっていうのがまず一番ですね。他の市町村は会社として酪農ヘルパーをやっているところが多いんで。4人家族、小学生6年生と4年生がいるんですけど、夏休み冬休みもちゃんととれますし。上士幌の酪農家さんは優しい人が多かったり、環境もすごくいいと思います。
やはり安定ということが大きいんですね。今後も上士幌にいたい、上士幌で働き続けたいと思いますか?
そうですね、上士幌にいたいです。この環境も好きだし、位置的に旭川にも釧路にも行きやすい、買い物もそうですけど、結構便利が多いんじゃないかなって。景色がすごく綺麗なので、そこもかなり気に入っています。
どこの景色が好きとかあるんですか?
それこそ、どこそこの牧場から見える朝焼けが綺麗だとか、夕焼けが綺麗だとかありますよ。ちょっと小高い山の上にあったり、農家から見える景色も全く違うので。
酪農ヘルパー以外でも、今後何かやりたいこととか、野望とかありますか?
今は現状維持で! 家族との時間も充分とれますし、自分の中では今の仕事が充実しています。
酪農の仕事は好きだけど、家族との時間を大切にしたい人にとっては酪農ヘルパーっていい仕事ですね。
そうですね。すごくいい職業だと思います。子どもが生まれて小さい頃は、日中家にいるので、子守をしたり、その間、妻は買い物したり気晴らししたりできたのは強いなあと。
素敵ですね。
あとは、今年コロナがあったじゃないですか。3、4、5月と3カ月くらい自粛が続いて学校がなかったりしたけど、俺は日中家にいるんで、子どものことを気にせず妻が働きに行けたのも強みかな。
-時刻 PM14:10-
インタビューを終え、午後の仕事に向かわれた、高橋さん。仕事の合間でのインタビュー、本当にありがとうございました。
上士幌の産業を支える酪農の世界で、世の中にあまり知られていなかった酪農ヘルパーという働き方。今の仕事が充実していると話す高橋さんには、自分の時間・家族の時間を大事にするからこそ、酪農ヘルパーという働き方が合っているようです。
そして、自分の時間・家族の時間を大事にするようになりつつあるこの時代だからこそ、酪農ヘルパーという職業が必要とされています。
ひと昔ふた昔前、俺らのじいちゃんばあちゃん世代は、「一生懸命働かなきゃ」そういう時代だったと思うんですよね。
今は、自分の時間とか家族の時間を作るのに、酪農家さんにとっても、酪農ヘルパーはなくてはならない職業だと思います。